
次世代型 保護者対応スキル習得セミナー
変容する保護者たち── 選ばれる塾となるために 保護者のニーズとのズレを整える
7月2日(日)アルカディア市ヶ谷(東京都千代田区)において、「保護者対応スキル習得セミナー」(サイタコーディネーション主催)が開催された。
講師を務めたのは、サイタコーディネーション(教育コーチングオフィス)代表の江藤真規氏。働く母親の増加とともに保護者のニーズの変化、子どもの生活の変化が生じ、塾とのズレが起きていることをデータ等で示し、それを踏まえた上での保護者との有効なコミュニケーション、保護者会・保護者面談の新たな提案を行った。
「困難感」から「不安感」へと変化した子育ての課題
近年保護者はどのように変化しているのか。江藤氏は「構造的変容」と「意識的変容」があると言う。構造的変容とは、ひとことで言うと、母親たちが企業などで働き、専業主婦がいなくなることだ。「今日本が特に力を入れているのは、管理職の女性を増やすこと。ここに相当の予算とエネルギーが注ぎ込まれているのが現状です。私は一般の企業の方々と仕事をすることも多いのですが、どこへ行ってもダイバーシティということで、女性を活躍させるために研修を行い、働き方を改革しています。これが現在の世の中の状況で、この取り組みの対象者が先生方のお客様であるお母さんということになります。しかも国を挙げての取り組みですから、ものすごい勢いで女性が家庭から組織に移行していく動きは加速していくだろうと思います」。
そして、その中で進行している大規模な教育改革。
「私見となりますが、多様化しつつも塾は絶対になくなりません。塾とは、働く母親にとって最も重要な、質が担保された子どもの居場所だからです」と、江藤氏は力強く語る。
では、保護者の意識変容とは何か。マザーカレッジという母親のスクールを主宰しておよそ10年になる江藤氏は、この10年の間に子育ての課題が「困難感」から「不安感」へと変化したと述べる。「例えばかつては、〝うちの子が言うことを聞かない〟〝勉強しない〟〝思うようにならない〟といった困難感が子育ての課題だったのですが、今は〝時間がない〟〝上手な子育てができない〟といった自己が抱える不安感に変わってきています」。
情報過多ともいえる今の時代、子育てや教育に関してだけでも多種多様な情報が世の中にあふれ、「いろいろとやらなければいけないことが目白押し」という思いが漠然とした不安感を生み出しているというのだ。
「そもそものやるべきことの増加に加え、何を選んだらいいのかがわからないという精神的負担、つまり多忙感と疲弊感が今の子育ての背景にあります。しかもこれは保護者だけでなく、子どもたちも結構くたくたになっています。先日幼稚園の先生と話をしていたら、習い事を1日3つハシゴするのは当たり前で、保育の時間に居眠りをしている子どももいるとのことです」。
なぜ保護者は未来に不安を感じるのか。その第一は「仕事がなくなる」という不安。そして「大学入試改革」も大きな不安要因の一つになっているという。それも不確かな情報による思い込みによって…。
「私が育った時代、『なんとなく、クリスタル』(1980年、田中康夫)という小説が流行りましたが、今は先行き不透明感が増して、『なんとなく不安』とも言える環境ではないかと感じます」。
保護者の不安を取り除くためのコミュニケーションを
学習塾の認識と保護者の意識のズレとは何か。多くの塾の視点が卒塾するその日にゴールセッティングされるのに対し、近年の保護者は目先のことに加え、子どもの将来というところにも視点を置いていて、そこに大きなズレがあるという。「保護者が求めているのは、子どもの成長を支援してくれる、第3の居場所としての塾。そしてお手本となる先生。一人のパーソンとして、行動(doing)、考え方(thinking)、あり方(being)まで保護者は塾の先生に求めたいのです。人が介在する指導だからこその要望だと思います」。
このズレを放っておくのはよくない。なぜならズレは不満を生み出すから。実際、「自分の仕事と子どもの勉強のサポートの両立ができない」、「子どもと一緒にいる時間が短いことを非難されているように感じる」など、離塾につながる不満を保護者は抱いているという。
しかし、不満は見方を変えれば課題であり、課題は解決に向かっていく成長の種でもある。
「保護者の不満に一つずつ対応していくという発想ではなく、考え方を根本的に変えましょう。どう変えるかというと、不安を取り除くためのコミュニケーションをすること、そして、保護者の意識を変えるための保護者教育を行うことです。ただでさえ時間がない中で、そして経済的にも大変な中で、捻出している塾への投資(経済的・時間的投資)の価値を最大化させるためにも、保護者を変えていくという発想が必要なのです」。
これからの学習塾は、家庭との協働的な関係づくりを
保護者の不安を取り除くためには、面談の際などに、とにかく保護者の話をよく聞くこと。
「塾の先生方はお仕事柄、すぐにアドバイスしたくなるかもしれませんが、そこをグッと抑え、共感しながら話を聞くことによって、保護者は『この先生には話が通じるかもしれない』と思い、心を開いてくれます」。
その次は、保護者の気持ちを受け止めること。「なるほど、家でそういうことがあるんですね」「そういうことが課題なんですね」と、ありのままを伝えるだけでいいので、とにかく受け止める(承認する)ことがポイントだ。
そのあと、「Yes、and〜」または「Yes、but〜」の構文に当てはめて、自分の意見を伝えていく。「なるほど。ではその部分は塾で引き受けます」、「なるほど。しかしその部分は一緒に協力してご家庭でできるようにしていきましょうか?」──など。
最後は、質問をすることによって保護者に「気づき」を与えていく。この質問が重要だ。自らが子育てをしていたときの体験として、「塾をやめさせたい」と申し出た江藤氏に対して、上手に質問を投げかけながら、離塾を踏みとどまらせてくれた事例などを江藤氏は紹介してくれた。
保護者会や保護者面談は、保護者の不安を取り除くコミュニケーションの場であり、保護者を教育する場でもあるので、十分な時間をかけて準備し、年に4回やってほしいと江藤氏は提案する。
「保護者会は保護者が学習する場という発想を持ち、次の保護者会にも保護者が行きたくなるような連続性あるものにしていただきたいと思います。勉強になったと保護者が思い、もっと学びたくなるような保護者会であれば、有給を取ってでも参加してくれるはずです」と江藤氏は語り、「これからの学習塾は、家庭との協働的な関係をつくっていくことが肝要です。教える、教えられるという一方的な関係ではなく、共に構築していく──そんな未来になっていくのではないかと思います」と結んだ。
【保護者会・保護者面談質向上研修】
講師は江藤真規氏。イマドキ保護者のニーズをベースに保護者会で伝えられるコンテンツ・保護者への伝え方、
さらにはスタッフ育成について具体的、実践的にお伝えします。
9月23日(祝)、10月22日(日)いずれも10時~16時。会場はアルカディア市ヶ谷。