
すららネット事業戦略発表会 海外展開 「すらら」小学校低学年版 「AIサポーター」など
3月2日(木)、株式会社すららネット(湯野川孝彦社長、東京都千代田区)は事業戦略発表会を開催した。海外展開に関する発表のほか、「すらら」小学校低学年版について、「AIサポーター」に関する概要などの発表を行った。
シシンガポール日本人学校中等部に「すらら」
「すらら」とは、インターネットを通じてゲーム感覚で学ぶことができる、「対話型アニメーション教材」。ネット環境があれば家庭学習も可能で、全国662塾、110学校で、3万9000人の生徒が利用しているという。
冒頭、(株)すららネットの概要や沿革などを湯野川孝彦社長が説明し、「売上げは毎年20〜30%アップしておりますが、その多くを占めるのは、学習塾ルートと私立学校ルートです」と述べた。
所得格差や教育格差の負のスパイラルを解決することを教育理念として掲げているすららネットは、海外展開においても2014年、マイクロファイナンス機関による貧困地域における学習塾展開を行っている。「スリランカのスラム地域における学習塾は、いまや塾として最大チェーンになっています」と述べる湯野川社長。
15年には、国立インドネシア教育大学との協同による小学校でのeラーニング活用、16年にはインドで非常に有名な私立学校でのトライアルを始めた。
「今度は日本人向けに、シンガポールの日本人学校中学部 に『すらら』を導入します。日本人学校の共通課題として、生徒は、海外赴任者のお子さんですから全体的に学力は高いのですが、それでも学力のバラツキは大きく、さらに教員の確保も難しいのが実状です。『すらら』でそれらの解消を目指していきます」と湯野川社長は語り、今後は国内の公立学校にも「すらら」を普及させたいとしている。
発達障害児をめぐる教育環境
公益社団法人子どもの発達科学研究所(片山泰一理事長、大阪府大阪市)の和久田学主席研究員は、発達障害児の環境について述べた。それによると、通常の学級に6.5%程度、特別支援の対象となる児童生徒がいて、その3分の2程度が学習面の困難さを抱えているという。文科省では様々な施策により、低学力児の支援、発達障害児への支援を充実させており、民間でも放課後児童デイ、療育センター等が整備され、発達障害児を受け入れる塾も増えてきているという。
「今回のすららネットさんとの共同開発では、すべてのお子さんを対象にしていますが、低学力、発達障害(特に学習障害)のお子さんの多くが楽しく学び、学力を高めることができるように考えられています」。
発達障害児、学習障害児(※)の学習支援においては、「個別性の確保」「脳機能の問題に配慮した支援」「学びの楽しさ」が必要だが、『すらら』はその3点をクリアし、さらにその特長である、応答性、イメージ力、スモールステップ、学習の見通しの提示なども十分に活かされているという。
※「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(発達障害者支援法より)。「学習障害」は発達障害の一つで、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、書く、計算する、または推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態(文部科学省HPより)。
「すらら」小学校低学年版を3月17日から提供
(株)すららネットの柿内美樹取締役は、「すらら」小学校低学年版の概要発表を行った。それによると、(公社)子どもの発達科学研究所と協働で小学校低学年版を開発し、3月17日(金)から提供を開始。小学校低学年版は、学習障害を持つ子どもでも取り組みやすく、学力を伸ばせる工夫を盛り込んだ教材だ。
「学習障害を持つお子さんは、例えば『大きい』とか『小さい』とはどんなことを意味するのかなど、細かく細かく、1つひとつ理解とアウトプットを重ねながら進めていくことが重要です。一見すると当たり前と思われるところが、学習障害をお持ちのお子さんではつまずきのポイントになります。そのギャップを埋める知見を子どもの発達科学研究所様にいただきながら、教材の中に取り入れたことが低学年版の大きな特長になります」。
学習障害児に限らず、国語の文字を学ぶ分野においては、文字と音の認識が身につくよう、「文字をさわって音を聞く」「聞こえた文字を選ぶ」「聞こえた文字・ことばを書く」など、多様なアプローチによる練習ができる。
さらに楽しく学ぶ工夫として、学習した内容の定着確認を遊びながら行える「ゲーム」パートを追加。結果に応じてメダル・アイテムを授与し、獲得したアイテムを科目ごとのトップ画面に集めるという収集要素を追加したという。
「AIサポーター」4月16日(木)から正式運用
「AIサポーター」の概要についても、柿内取締役が発表。「AIサポーター」とは、人工知能(AI)が生徒の学習データに基づき、生徒と対話することで学習意欲向上を促す「すらら」の機能だ。ニャンロイド1号というキャラクターが声がけや、生徒との対話をチャットにて行い、学習習慣の定着・学習意欲の向上を目指す。
「生徒が一定の条件を満たすとチャットボックスが表示され、キャラクターが適切な声がけを行い、それに生徒が返信すると、対話ができる仕組みになっています」。
今回の正式運用開始は、「AIサポーター」のトライアル版を用いて、昨年4月24日〜10月23日の期間、教育経済学を専門とする慶應義塾大学中室牧子研究室と行った共同研究の結果を受け、改良したもの。
「どのような声かけが学習意欲の向上、あるいは生徒の学習行動の変化に影響があるかを研究しておりました。その結果、いろいろな声がけを用意したのですが、『ここまでよくやったね。じゃあ、もう少し頑張ろうか』など、ただ褒めるだけではなく、さらに次のアクションを促したり努力を促す声かけが子どもの学習を変え、最も有効であることがわかりました」。
この結果を踏まえ、「努力を促す声かけ」を中心としたシナリオへ内容を変更・強化し、さらなる学習意欲の向上を図るため、季節性を持たせた声かけの追加とそれに応じたキャラクターイメージの変更、出現頻度のコントロールを行った。
このほか、(株)ドコモ gaccoの伊能美和子社長が「発達障害児に関する共同啓発」、(株)NTTドコモ・イノベーション統括部 企業連携担当の小林拓也氏が「ビジネスにおけるチャットボット(コミュニケーションを自動化するツール)の可能性」について発表した。