
森上教育研究所 2016年度中学入試 「首都圏中学入試の結果と分析」
2月19日(金)、アルカディア市ヶ谷私学会館において、(株)森上教育研究所主催の2016年度中学入試「首都圏中学入試の結果と分析」が開催された。
各講師が入試問題4教科を分析し、何が問われたかを考察し、入試状況はどのように変化したかを報告。さらに、大学入試改革の行方、受験生動向から見た今春入試の大手塾の分析などが行われた。
●国語/小泉浩明 氏(平山入試研究所 主宰)
問題文は確実に長くなり、意欲とか物事を成し遂げる力を試しているという。
16年度の頻出作家と作品は、椰月美智子「14歳の水平線」(浅野・筑波大附属)/「十二歳」(開智)、榎本博明「〈自分らしさ〉って何だろう?」(横浜共立・品川女子・立教新座)。
「作家と作品は多様化していますが、今年の入試では昔の作品が顕著に出ています。今後も昔の作品が出題される可能性は高いので、注意が必要です」と語る小泉氏。例えば、小川未明(1882年生まれ)「月が出る」(和洋国府台女子)、O・ヘンリ(1862年生まれ)「自動車を待つ間」(青山学院)、石井桃子(1907年生まれ)「春のあらし」(駒場東邦)など。
また、記述問題を重点的に出題する学校は増える傾向にあり、考えさせる問題、教科横断的な問題も目立っているという。
「全体として大学入試改革の新テストを意識した問題が中〜上位校で少しずつ出てきているので、あるとき一気に広がるのではないでしょうか」。
●理科/小川眞士 氏(小川理科研究所 主宰)
全体の傾向として、①4分野まんべんなく出題されているが、その内容はかなり教科書を意識したものとなっている ②身近なものから出発している ③時事問題を意識している──という3つのポイントがあるという。
例えば①は、教科書で扱われるヘチマの成長に関して、データをもとに折れ線グラフを描き、そのグラフからわかることを考える問題(専修大松戸)。②は、モヤシを導入に使い、発芽の条件に関しての確認、実験と考察(普連土)。③は、地震・火山の問題で、社会理科横断的な問題(女子学院)、ひまわり8号からの可視画像と赤外画像を比較し思考、雲の名前や雲ができる高さの違いの記述もある(海城)──など。
「時事問題から出発して、データを読み取り、いかに考えてまとめていくか? という力が問われてくるので、単なる記憶力の問題ではなく、いかに立体的に考えたかが、問われるような入試が増えていくと思います」と、最後に小川氏は語った。
●算数/金廣志 氏(森上教育研究所スキル研究会)
「本年は中学入試のターニングポイントになった年だと強く感じました。今はあまり気づかないかもしれませんが、来年、再来年になると、2016年は大きな変わり目の年だったということが、新しい入試問題によって証明されていくのではないかと考えています」。
データ上では入試は難化したが、問題そのものは意外に易しいという印象を持ったと言う金氏。しかし、平均点は下がっているという。
「なぜ平均点が下がったかというと、一つは問題文が長く、問いの条件が多かったこと。解答するのに時間がかかる問題が多かったため、最後の問題に手をつけられなかったことが考えられます」。
もう一つの理由は、塾のテキストが難化していることを挙げる。「あれもこれもと欲張って、学習が消化しきれず、学力が身についていない傾向にあるのではないでしょうか。月並みですが、基礎・基本に立ち返り、規則をきちんと一つひとつ書き出し、与えられた条件を整理する手法を学ぶ必要があります」。
●社会/早川明夫 氏(文教大学)
社会の入試問題を分析したのは、早川明夫 氏(文教大学)。全般的な傾向はここ数年大きな変化はなく、基礎・基本の問題が大半を占めるので、この成否が合否を決定するという。
「社会科の基礎・基本は何なのかというと、一つは用語の意味をきちんと理解しておくこと。その理解度が足りないと応用できず、単なる知識のぶつ切りに終わってしまいます」。
記述問題は増加傾向にあり、ほとんどは理由を問う問題。次に資料の読み取り、用語の説明の順で多くなっているという。
また今年の大きな特徴は、時事問題を直接的に出題したり、時事問題を念頭に置いた問題が非常に多かったという。さらに、小学校の教科書やその応用問題、上位校では資料を批判的に読み取る力を求める問題が増加しているとのことだ。
●2016年私立中学受験状況
後藤健夫 氏(森上教育研究所)
今後は「正解のない問い」がキーワードの一つになってくるという。
「正解が一つであれば、一斉授業でいいかもしれませんが、アクティブラーニングなどを行う場合、授業形態などの工夫も必要になってくると思います」。
●サピックス生の受験状況
広野雅明 氏(サピックス教育情報センター本部長)
受験者が増えている学校は、入試改革がうまくいっているとのこと。
「高大接続して6年間じっくり学べる大学附属校が人気です。暁星のようにフランス語の選択ができたり、成蹊のように帰国生のクラスを設けたり、獨協のようにドイツ語をしっかり学習できるなどです」。
女子は進学校の中でも理系に強い学校が大人気で、公立中高一貫校は男子より女子で人気を集めているという。
●早稲田アカデミー生の受験状況
入吉弘幸 氏(早稲田アカデミー教務部部長)
受験者層に合致した入試日程・入試制度を設けている学校は、受験者が増えているという。また、入試実績や高大接続において期待感が持てる学校も人気だ。
そして短期集中型の受験は、緩和傾向にあるとのこと。