
私教育を1つの力に
『ダーティー・ユー』プロジェクトと
CMF・劇団の新しい挑戦
◎演劇『イントゥルーダー』から始まった新しい流れ
昨年の春、友人から一本の電話をもらった。
「『イントゥルーダー』を演劇にしたいんだけど、どうだろう」
もちろん僕の答えは、「ぜひ、やって」。
『イントゥルーダー』は、1999年にある賞を取り、出版された僕の小説デビュー作であり、テレビドラマ化もされた。僕にとって特別な思い入れのある作品だ。それが時代を超えて舞台として蘇る。それだけでも十分に嬉しいことだ。
これまでも映画化やテレビドラマ化された作品はあった。また、2000年には、出版されたばかりのいじめを題材にした小説『ダーティー・ユー』を、ある大学附属中学校が、一年を通じて議論し、秋の文化祭で演劇として上演してくれた。小説が新しい表現として生まれ変わることは、作家、少なくとも僕にとっては、何よりの喜びであり興味深い。
そして約一年後、2026年5月、『イントゥルーダー』は新大阪の劇場で上演された。4回の公演で約700人の観客が劇場を訪れてくれた。原作者として舞台挨拶に呼ばれ、観客の皆さんと直接言葉を交わす機会をいただいた。
公演はおおむね好評だった。映像作品とは違い、演劇には俳優さんの息遣い、緊張感、感情の揺れがそのまま伝わる。観客は登場人物と同じ空間を共有し、その苦しみや葛藤を体感する。だからこそ、演劇には人の心を動かす特別な力があるのだと思う。
実は舞台の数カ月前、プロデューサーである友人から電話をもらっていた。
「来年は『ダーティー・ユー』をやらせて?」
もちろん、僕の返事は「よろしくお願いします」。
『ダーティー・ユー』の映画用シナリオはすでに第一稿が完成している。しかし演劇には演劇の表現があり、映画には映画の表現がある。現在、知り合いのシナリオライターが、舞台版の脚本を執筆してくれている。
こうして『イントゥルーダー』は、一つの作品としてだけではなく、『ダーティー・ユー』へと続く新しい流れの出発点となった。
◎一般社団法人CMFの目指すもの
現在、僕は友人たちとともに一般社団法人「Children Make the Future(CMF)」の設立を進めている。6月中に完成予定です。
CMFが目指しているのは、子どもたちが自ら考え、自ら行動し、自ら未来を切り開いていける社会をつくることだ。そのため3つの目的を掲げている。
第一は「幸福を得る」ことである。
子どもは安心して生きられる環境の中でこそ、本当の意味で幸せを感じることができる。家族や友人、地域社会に支えられ、自分自身の存在価値を実感できること。それが幸福の土台になる。CMFは、子どもたちが生きやすい社会をつくることを目指している。
第二は「自分を知る」ことである。
子どもたちは成長の過程で、自分の性格や得意、苦手なことを知っていく。「これは好きだ」「これは苦手だ」と感じること自体が、自分らしさを発見する第一歩になる。大切なのは苦手を責めることではなく、得意なことを見つけて伸ばしていくことだと考えている。
第三は「自分を伸ばす」ことである。
将来の夢や目標を持ち、それに向かって努力する過程こそが、人を成長させる。「こんな仕事をしたい」「こんな人生を送りたい」という思いが、人を前へ進ませる力になる。その挑戦を支え、手助けする存在でありたい。子どもたちが自分の未来を歩いていくときに、少しだけ背中を押す役割りだ。
現在、CMFが最初の具体的な目標として掲げているのが、「子どもの幸せ」を実現することである。その第一歩として「いじめをなくす」ことに取り組んでいる。
◎CMFと『ダーティー・ユー』の関係
『ダーティー・ユー』は、いじめをテーマにした小説である。
それは単なる「いじめ小説」ではない。小説の中には、加害者、被害者、傍観者がいる。教師や親も登場する。各自が自分なりの問題を持ち、それぞれが苦しみを抱えている。小説が描こうとしているのは、人間の弱さであり、孤独であり、社会のあり方そのものなのだ。この作品の持つ力を大切にしたいと考えている。人は説明されただけでは変わらないからだ。
「いじめはいけません」
そう何度言われても、人の心は簡単には動かない。しかし物語の中で誰かの苦しみを追体験すると、人は初めて自分の問題として考えるようになる。『ダーティー・ユー』という小説を通して、子どもたちばかりではなく、大人にも問いかけたい。
その先にCMFが構想しているのが「いじめを考える日」だ。
これは全国の学校で同じ日、同じ時間に、子どもたちがいじめについて考え、語り合う時間を共有する試みである。単なる学校行事ではなく、子どもたち自身が自分と人との関わりについて真剣に考える日である。その中心に置きたいのが、映画『ダーティー・ユー』だ。将来的には映画を全国の学校で一斉上映し、その後に討論会を行う。
「自分ならどうするか」「なぜ傍観してしまうのか」「人を傷つけないとはどういうことか」
その答えを大人が教えるのではなく、子どもたち自身が考え、語り合う。現在はオンラインを通して、そういうことが出来る時代になっている。
◎演劇から映画へ、そして全国へ
映画をつくるためには、多くの人の協力が必要になる。資金も人も時間も必要であり、社会的な理解も必要である。そのためには、まず演劇という形で作品を世の中に知ってもらい、共感を広げていく必要がある。
CMFは、この小説と演劇を通じて映画制作に協力してくださる学校や企業や団体を募っていく。
企業にとっても、このプロジェクトは単なる文化支援ではない。子どもの未来を支え、いじめ問題に向き合う社会的な取り組みへの参加である。子どもの未来は企業の将来に通じると考えてほしい。
また、CMFは劇団と共に、将来的に『ダーティー・ユー』の演劇を全国へ広げたいとも考えている。東京でも、地方都市でも上演したい。そしてさらに、学校での演劇という形もある。
学校がシナリオを使い、あるいは作り、生徒たち自身が演じるのだ。役を演じることで、登場人物の気持ちが見えてくる。被害者の苦しみも、傍観者の迷いも、加害者の弱さも理解できるようになる。
◎CMFと劇団が目指す未来
CMFの目的は、いじめをなくすことだけではない。
子どもたちを苦しめている問題は、いじめ以外にも数多く存在する。不登校、ヤングケアラー、貧困、ネット依存、虐待など、現代の子どもたちは様々な困難に直面している。今後CMFは、こうした問題についても取り組んでいきたい。
その手段として、演劇、映画、オンライン討論会などを活用し、多くの人が問題を共有し、考える機会をつくりたい。
CMFはまだ第一歩を踏み出したばかりです。この小さな一歩が、やがて大きな変化につながることを信じています。
CMFの挑戦は、これから本格的に始まります。
作家 高嶋哲夫 氏
教育関係の著作「いじめへの反旗」(集英社文庫)「アメリカの学校生活」「カリフォルニアのあかねちゃん」「風をつかまえて」「神童」「塾を学校に」「公立学校がなくなる」など多数。
https://takashimatetsuo.jimdofree.com/


































