
著作権と向き合うことから始まる、
AI採点という教育開発出版の選択
AI採点〝KSAI〟リリース予定
教育開発出版株式会社 取締役 事業開発部長 石川原 正純
教育現場にAIは何をもたらすのか
教育分野におけるAI活用は、いま大きな転換点を迎えています。指導、採点、解説、学習分析、弱点補強など、これまでヒトが多くの時間を割いてきた業務にAIが入り始めました。私学・私塾の現場でも、教師配置の最適化や授業品質の平準化が課題となる一方で、子ども一人ひとりに向き合う時間を確保することがこれまで以上に求められています。
ただし、AI導入のきっかけが「便利だから」「流行だから」に傾くと、現場は別のリスクを抱え込みます。特に教材を扱う領域では、著作権と利用許諾を曖昧にしたまま、教育現場へ入り込むサービスが増えていることに強い懸念を感じています。教育の現場は、結果が出るまでに時間がかかります。だからこそ、いまの「とりあえず」で選んだ道具が、数年後に重い負担として跳ね返る可能性があることを私たちは市場に投げかけていきたいのです。
教材には著作権がある。
問題文、設問構成、解答形式、解説―それらはすべて、長年にわたり編集者や執筆者が積み重ねてきた知的財産です。教育開発出版では、「この問題の次に、この問題を配列する事で生徒の理解を深める一助になる」自負を強くもっています。しかし現在、市場には「教材を撮影・入力すれば即座に解説」「とことん弱点を補う」「AIが自動で採点・添削」といったサービスが溢れつつあります。
もちろん、AI技術そのものを否定するものではありません。むしろ利用できるところは大いに活用するべきです。問題は、その多くが著作権や利用許諾について明確な説明を行っていない点にあります。
「まだ判例がないから大丈夫」「グレーだが問題になっていない」――そうした認識のまま、常に社会的責任を伴う教育現場で使い続けてよいのでしょうか。
もし将来、法的な判断が示されたとき、誰が責任を負うのか。その影響を最も受けるのは、現場で真摯に指導に向き合っている先生方や塾経営者です。
教育開発出版としての立場から生まれたAI採点
教育開発出版では、こうした問題意識を前提に、Keyワーク/Keyテストを起点としたAI採点機能の研究開発を〔KSAI〕という名称で進めています。
目指しているのは、「すぐに使えるAI」ではありません。「安心して使い続けられるAI」です。
Keyワーク/Keyテストは、長年にわたり教育現場で使われてきた教材であり、その著作権・利用範囲は明確に管理されています。この自慢の教材に、安心して使えるAIを用いた採点機能を付加します。これは、教材の権利関係を正面から整理したうえでAIを組み込むという、極めて正攻法の取り組みです。
2026年は研究開発と実証の年と位置づけ、現場で本当に使える精度と運用を検証します。
そして2027年、正式リリースを予定しています。
なぜ「許諾」を最優先にするのか
教育開発出版が時間と手間をかけている理由は明確です。
AIは道具であり、教育の主役ではなく、教材と指導の価値を毀損してまで導入するものではないからと考えるからです。
著作権者の許諾を得ずに教材を解析・解説する行為は、短期的には便利かもしれません。しかし、それが常態化すれば、教材開発や教員育成、ひいては教育そのものが成り立たなくなる。つまり教育の質は確実に下がると考えています。
「便利だから使う」のではなく、「安心して使えるから選ばれる」――
それが、教育分野におけるAIのあり方ではないでしょうか。
私学・私塾に向けた提案として、教育開発出版が目指すAI採点は「先生の代わり」では決してありません。これまで可視化が難しかった家庭学習の領域に踏み込み、指導を支える情報を増やすことに価値を見出します。授業中の理解度は教師の観察で把握できても、家庭で「何を」「どこまで」「どんな順序で」取り組んだかは、提出物や自己申告に依存しています。
KSAIにより、家庭で解いた問題の結果を即時に教師用画面へ反映でき、正誤だけでなく、設問単位の傾向や誤り方の偏りを教師側が早期に発見できるため、効果的な補習を入れる、同じ誤りが出やすい単元を復習課題として再提示する、といった手が打てます。家庭学習が「やった/やっていない」の二択から、「どの理解が不足しているか」というエビデンスへ変わり保護者と共有できることは、指導の精度を押し上げ、われわれの社会的役割をさらに向上させると考えます。
労働力不足の解消(労務削減の効果)も現実的で、採点・集計・転記に費やしていた時間が短縮され、講師は指導設計や面談準備、保護者へのフィードバックといった付加価値の高い業務に集中できます。重要なのは、AIが教えるのではなく、教師が教えるための材料を整える点にあります。言い換えれば、KSAIは「指導の質を上げるために、現場の時間を取り戻す」ための仕組みであります。
2026年の研究開発では、精度の向上はもちろんの事、この集まったデータをさらに有用にするためには何が必要なのかを考える時間とします。弱点を指摘し続けるのではなく、嫌いを普通に、好きをもっと得意にするためにこれまで蓄積してきた膨大なコンテンツをどのように提供するかといった徹底した生徒目線、教師目線を研究する一年にします。
また、許諾を前提とする取り組みである以上、教材の価値を守ると同時に、導入側が安心して運用できる説明責任も果たす必要があります。どの範囲でAIが処理し、どの範囲は扱わないのか。AIにはできない採点を正直に公開し、これからAIと共に生きて行く生徒達が安心して使えるものとしていきます。AIができないこと、苦手な事、AIが嘘をつく傾向が多い部分を、生徒・教師・保護者に誠実に説明できる形で整理しておくことが、学校や塾の信頼にも直結すると考えます。
この取り組みは家庭学習のエビデンスが蓄積され「学びの見える化」を軸にした差別化にもつながります。学習状況を事実として生徒/保護者/教師が共有できれば、納得感と信頼感が同時に高まります。
世の中には「まだ判例がない」領域に踏み込んだサービスが次々と現れると予想されます。しかし教育は、グレーのまま走り切ることが許されにくい領域ではないでしょうか。私たちが長期的に教育の質を高め、保護者と生徒の信頼をさらに積み上げていくためには、利便性と同じ重さで〝安心〟を選ぶ視点が欠かせません。
教育開発出版のKSAIは、著作権と向き合う覚悟を起点に、家庭学習を可視化し、教師がより良く教えるための時間と根拠を提供します。2027年の正式リリースに向けて、現場で使い続けられる「責任を取れるAI」を形にしていきたいと考えています。





































