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英語教育に“核”を取り戻す──
上智大学 吉田研作名誉教授に学ぶ指導の原点

2025-08-01

文法の難易度ではなく「Can Do」によるレベル分けと自己評価が鍵に

吉田 研作 上智大学名誉教授

吉田 研作 上智大学名誉教授

子どもたちと真摯に向き合いながらも成果や目標に追われがちな民間の英語教育。その中で今、どんな指導のあり方が求められているのか――。学習指導要領の改訂にも携わり、学校教育において数多くの示唆を与えてきた英語教育の第一人者・上智大学の吉田研作名誉教授に、今回は民間教育の現場にも光を当てていただいた。現場の声を代弁するかたちで、吉田教授に今後の指針となるアドバイスを伺った。

日本の英語教育の歴史 明治時代から重要視されていた英語の四技能

実は日本の英語教育では、明治時代から「四技能(読む・書く・聞く・話す)」の重要性が唱えられてきました。開国直後の東京大学ではすべての授業が英語で行われるほど、英語への憧れや学生達の学ぶ意欲が強かったのです。しかし、当時は英語を話せる教師が少なかったことから、正則法(英語で英語を教える)と変則法(日本語訳を通じて学ぶ)が登場。正則法での指導が理想ではあるものの、現実には変則法が主流となり、現在の「訳読」中心の教育スタイルにつながっていきます。
戦前・戦後の混乱期には外国人教師も少なく、日本人教師の教育体制となったことで「読む・訳す」力が重視されました。江戸時代から日本人は外国語の文献を「解読」し外国の文化や技術を学んでいましたが、やがて内容理解よりも表面的な文法や語彙の習得が中心となり、英語教育は「金魚鉢」のような閉ざされた中で行われるようになります。つまり、日本の英語教育は「世界に出たい」という思いがありながら、限られた環境の中で現実的な方法を模索してきたのです。
1960~70年代には外国人が増え、民間英会話学校が台頭。「使える英語」への関心が高まった一方、学校教育は依然受験中心で、話す力は軽視されたままでした。企業も社員研修を通じて英語力を重視し、英検が昇進条件になるなど実利面でのニーズも増加しました。しかし、バブル崩壊後は企業の教育投資は縮小し、英語教育も再び内向きになります。「教養としての英語」、すなわち日本語での思考力を土台に、英語を深く理解し自己表現へとつなげる姿勢を重視した英文学者もいましたが、この視点は十分に浸透せず、現場ではしばしば翻訳偏重と誤解されていました。
私はよく「金魚鉢型の英語教育」と「大海型の英語教育」を対比して語ります。金魚鉢型とは、国内の試験に特化し、文法や穴埋めなど表面的なスキルだけを重視する教育です。そこでは、深い読解力や自己表現の力は育ちません。本来目指すべきは、世界で自分の意見を発信し、議論できる力を育てる英語教育です。「まず日本語でしっかり考え、知識として整理したうえで、外国語で表現する」ことは大切なことです。その点、現在の学習指導要領は文法規則などの言語の形式重視から内容重視に視点を移した点で評価できます。以前の文法中心の構造主義的カリキュラムから、「英語教育を本質的に変えよう」という動きがようやく形になりつつあります。
かつての中学校英語教育では、文法の難易度に応じて学ぶ順序が厳格に定められていました。文部科学省は「英語を話せるように」と掲げながら、実際のカリキュラムは文法中心という矛盾。1980年代後半、文法順にこだわらない方針が出されましたが、受験重視の体制下では文法中心の教え方が続きました。私がアメリカの大学で英語を教えていた頃、日本からの教員団との交流で印象的だったのは、理科や社会科の教員は積極的に現地の人と関わる一方、英語科教員たちは会話を避けていたことです。理由を尋ねると「英語科教員だからこそ間違った英語を使ってしまわないか不安」、「英語の間違いを指摘されたくない」とのこと。英語を教える力はあっても、実際の使用に自信が持てない姿勢は構造主義的教育の限界を示しています。

文法の知識だけを測るのではなく、
実際にどんなことができるかを重視する教育への転換

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現在の学習指導要領では、こうした教育からの脱却が進んでいます。象徴的なのが「CEFR(Common European Frameworkof Reference for Languages =セファール:ヨーロッパ全体で外国語の学習者の習得状況を測るためガイドライン。A1~C2までの6段階にレベル分けされている)」に基づく「Can Doリスト」の導入です。これは文法順でなく「何ができるか」で学習者の能力を評価する方法で、A1では「自己紹介ができる」、B1では「意見が述べられる」といった段階的な力の伸びを重視します。私が作ったテキストOpen Seasシリーズ(京都文英堂)もこの考えに沿って「1・2・3」のステージに分け、発展性のある構成になっています。大学入学共通テストも従来の文法中心から転換し、A1~B1レベルに分けて出題、実践的な英語力を評価できる内容になっています。文法の知識だけではなく、実際にどんなことができるかを重視するようになった英語教育の大きな転換点といえるでしょう。
近年ではSDGsなど社会的テーマを英語で議論する力も求められるようになり、旧センター試験よりも「思考力」「表現力」が問われるテストへと変化しています。ただ、生徒には難易度が上がったと感じられやすく、それに対応する教材や授業の工夫が必要です。高校英語の「論理・表現」科目ではプレゼンテーションやディスカッションを扱うはずですが、英語での議論に消極的な現場も少なくありません。背景には教科間の分断があり、英語教員が国語の学びと接続できていない現状もあります。しかし、国語で育てた論理的思考を土台に英語の発信力を伸ばすのが文科省の基本方針です。私が関わったスピーチコンテストでは、出場資格を「日本の学校に通っている生徒」で統一し、帰国子女、外国籍の生徒を含めて誰でも参加できる開かれた大会にしたうえ、スピーチ後の英語による質疑応答を必須にしたところ、生徒たちが短期間で力をつけました。英語によるディベートも広がり、日本の高校生が国際大会で活躍する例も増えています。生徒の努力に加え、教員の指導力向上や意識の変化も大きく影響しているのだと思います。
不安定な時代において、若者が国や地域を超えて学ぶ力はますます重要です。日本の英語教育は決して無策だったわけではなく、少しずつ教え方がずれてしまった結果、なかなか英語力が身につかないまま進んでしまったという側面があります。民間教育の立場で英語に関わるなら、もっと積極的に生徒に会話の機会を与えたり、先生側から具体的な働きかけをしたりすることが大切だと思います。つまり、先生が「投げかける教育」が必要なんです。民間教育ではこれまでにも多様な取り組みを実施してきました。それぞれの現場で先生方は本当に頑張っていると思います。ただ、どんな学校、どんな指導方法であっても、一番大切なのは「子どもの将来をどう考えるか」です。もちろん目の前の入試も大事ですが、その入試も大きく変わってきています。民間の四技能テストを利用する大学が増加傾向にあり、私立だけでなく、国公立でも30%以上が民間テストの結果を活用しています。今後はさらに増えていくでしょう。AIの進化やグローバル社会において、英語で自分を表現し、多様な人と関われる力がますます求められます。その力を育てることこそが、教育の最も重要な役割だと考えています。

ポジティブな視点での評価と「自分はできる」という自信が英語力の土台になる

学校で行われている「学力テスト」は「教えた内容を覚えているか」を測るテストであり、英検やTOEFLは「自分が今どれだけの力を持っているか」を測る実力テストです。前者は「できなかった箇所」を指摘され、それを直していきますが、後者は数字やスコアしか出ません。何ができなかったかではなく、「ここまでできた」というポジティブな視点で評価されます。だからこそ、前向きな成長を促すツールとしてとても大切です。英検の「バンド制」は点数ではなく、一定の力があれば級として認定される仕組みで、武道などで級や段を採用する日本文化にとても合っていると思います。
さらに重要なのが「自己評価」です。Open Seasの各章末にあるCan Doリストでは、四技能に沿って「自分がどれだけできたか」を振り返ることができます。以前、GTECとCan Do評価を用いた日韓の高校生調査では、点数が高くても「外国人と英語で自由に話せる」と自信を持って言えない生徒が多くいました。一方、小学生の女の子がALTと会話ができるので、「できる」と即答した例もあり、自信の有無が英語力とは別に重要であることが分かります。また、自己評価で「できる」と感じる項目が増えると、自信と英語を使う意欲が高まります。私はこのCan Doチェックを非常に重視しています。学力以上に、「自分はできる」と思える感覚が、英語力の土台になるからです。また録音教材では、ネイティブだけでなく日本人の音声も取り入れ、多様な英語に触れられるよう工夫しています。これは国際英語の観点からも重要だと考えています。
生徒を伸ばすには、教師自身のスキルや自己評価の見直しも欠かせません。私は教員研修で、常に2つの大切な姿勢を伝えています。「生徒が好きであること」と「英語が好きであること」。この2つがあれば、指導の軸はぶれません。「生徒に英語の楽しさを伝えたい」という気持ちこそが、良い教師を育てる鍵ではないでしょうか。


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