
私教育を1つの力に
『 シン・ダーティー・ユー』シナリオ第一稿完成
──映画は目的ではなく、未来を変える手段である
2025年7月、『シン・ダーティー・ユー』のシナリオ第一稿が完成した。
いじめの現実と向き合い、それを乗り越えようとする子どもたちの物語を通して、現代社会に重要な問いを投げかける映画であってほしい。
1980年代の荒れた教室から始まった物語
1980年代、僕は夢破れてアメリカから帰国し、神戸の郊外で小さな学習塾を始めた。
中学校の窓ガラスが割られ、教師が生徒から暴力を受ける時代だ。学校では語れないことを、子どもたちは塾では話してくれた。
「いじめによる自殺」が社会問題にもなっていた。
『ダーティー・ユー』はその頃書いたものである。アメリカ帰りの中学二年生の少年が、いじめられている友人のために「アメリカ流」の方法で立ち向かう物語。2001年にNHK出版から単行本が出た。その後、光文社文庫、そして現在、『いじめへの反旗』として集英社で二次文庫になっている。
出版後、映画監督の瀧澤正治さんから丁寧な手紙をいただいた。「子どもの頃いじめを受けていた」と共感を示してくださり、「ぜひ映画化したい」と申し出てくださった。シナリオが作られ、ロケハンまで進んだが、資金面の壁により実現には至らなかった。それでもある大学付属の中学校では、この作品をもとに一年を通じて討論してくれた。シナリオを書き、夏休みに練習し、文化祭で演劇として上演してくれたのだ。
再挑戦、そして受け継がれた想い
2022年、コロナ禍の中で瀧澤さんと再会した。「もう一度、あの映画を」という思いが交わされたが、その年、彼は急逝された。もう無理かもしれない——そう思った矢先、前回ラインプロデューサーであった澤田卓さんが遺志を継ぐと申し出てくれた。こうして、彼を監督として映画化への歩みが再び動き出した。
ただし、最初の構想から30年近い時が経っている。いじめの形も、社会も大きく変化している。そこでシナリオは全面的に再構成されることとなり、シナリオライターの麻生幸子さんによって『ダーティー・ユー』映画シナリオの第一稿が完成した。
僕が彼らにお願いしたのは、ただ一つ。「子どもたちがこの映画を見る前と見た後で、何かが変わる作品にしてほしい」。今後、多くの人たちの意見を聞き、より良い物語へと育てていく。もちろんこれは、映画化が決まったわけではなく始まりにすぎない。
「核」は変わらない、けれど「未来」は変える
書かれたのは30年近く前、時代は変わっている。子どもたちを取り巻く環境も大きく違っている。現在の子どもたちが見て納得のできるモノでなくてはならない。当然、シナリオは原作と異なる点もある。それは……ここでは書けない。
「もっと優しく」「もっと強く」映画を通じて、子どもたちにその二つの力を届けたい。
いじめの形は変わっても、本質は昔も今も変わらない。被害者、加害者、傍観者がいる。そこにはいつも各立場の痛みと葛藤がある。時代が変わるにつれ、その形は巧妙に、陰湿に姿を変えた。1980年代は目に見える行為、暴力が主だったが、今は言葉、あるいは無視、グループ外し、そしてSNSによる中傷、晒し行為。学校内のいじめだけではなく、家に帰ってからも24時間大きな心のプレッシャーとなって当事者を苦しめる。
さらに現代の子どもたちは、不登校、ヤングケアラー、貧困、ネグレクト、発達障害など、複雑な問題を抱えている。「学校」だけが問題の舞台ではなく、家庭や社会のあり方すべてが絡み合っているのだ。大人社会にも「パワハラ」など、いじめの延長のような行為も社会問題になっている。それはなぜだろうか。もっと人が「優しい心を持てたら」「強い心を持てたら」。「いじめ」を単独の問題としてではなく、「社会との関係の中でどう生きるか」というテーマとして感じてほしい。
「いじめを考える日」の核として
今まで「いじめを考える日」については説明してきた。バラバラな子どもたちの心、学校を一つにまとめる日と場にしたい。
『ダーティー・ユー』は、目指している「いじめを考える日」の中核でもある。この日は、全国の小中高校をオンラインでつなぎ、一斉に映画を上映する。そして上映後には討論会や感想共有、さらにはいじめを受けた当事者や、子どもを失った親の講演も取り入れる予定だ。まさに夢のような計画である。
そこではただ鑑賞するのではなく、「自分の言葉」で語り合い、子どもたちが自分ごととして、いじめに向き合う日をつくることが映画化の真の目的である。さらに「いじめを考える日」を毎年継続的に開催し、将来的には全国の子どもたちが、自分たちが抱える問題を広く議論し合える場にしていきたい。
まずは「シナリオ討論会」から
前回述べたように、岡山の高校で生徒がシナリオを読んで、討論会を開いてくれた。こうした試みが東京でも行なわれることが決まった。
このプロジェクトの最終目的は、「子どもたちが楽しく、希望を持って生きられる社会」を自らつくることにある。そのために、『ダーティー・ユー』の映画化があり、「いじめを考える日」という仕組みがある。この日を核にして、日本の教育を変えたい。公教育と私教育の壁を越えた学校、学習塾、「子どもたちを中心に据えた教育」に再構築したい。映画はその過程でありツールである。映画をきっかけに、日本の子どもたちが「共有する時間と空間」を持ち、「今」を見つめ、「未来」を語る。そんな場をつくりたいと思っている。
資金と共感を集める
映画制作には当然ながら資金が必要だ。映画上映は無料で、収益はない。一般企業の社会貢献費(CSR)や個人の寄付を基盤に、「広く、浅く(深くても構いません)、熱く」支援を求めていくつもりだ。
そのために重要なのは、「賛同してくれる学校」の存在だ。お金を出してくれとは言いません。難しいことは十分承知しています。でも、上映に協力してくれる学校が増えれば増えるほど、企業にとっても支援の意義と信頼性が高まります。私立学校にとっても、いじめは「学校の信頼」や「存続」に関わる重要な問題です。だからこそ一緒に声を上げ、一緒に動いていく仲間が必要です。
『ダーティー・ユー』は、かつて荒れた時代の子どもたちを描いた物語だった。『シン・ダーティー・ユー』は、見えづらくなった今の時代の子どもたちを描く物語だ。
時代は変わった。いじめの形も、社会の在り方も。しかし「いじめは絶対に許されない」という真実だけは、今も昔も変わらない。このことを子どもたちの心で考え、言葉で表現してもらいたい。
この映画が、一人でも多くの子どもたちに「自分は一人じゃない」と思わせ、「もっと優しく」「もっと強く」なってくれることを望む。そして大人たちに「自分にもできることがある」と気づかせてくれたら。それがこのプロジェクトの使命であり、目的です。
作家 高嶋哲夫 氏
教育関係の著作 「いじめへの反旗」(集英社文庫)「アメリカの学校生活」「カリフォルニアのあかねちゃん」「風をつかまえて」「神童」「塾を学校に」「公立学校がなくなる」など多数。
https://takashimatetsuo.jimdofree.com/










![[左] 今回のシナリオ [右] 25年前のシナリオ](http://www.juku-kyoiku.com/wp-content/uploads/2025/08/2025_08_p50_shinario_asahina.jpg)























