
2025年 SRJ春期大会
子どもの幸せな将来のために「見えにくい力」を育てよう
「教育環境の転換期だからこそ!塾・教室の新しい価値を考える」
5/18 東京 5/25 大阪で開催
5月18日(日)、株式会社SRJ(柏木理代表取締役社長、東京都中央区)主催の2025年SRJ春期大会が東京ミッドタウン八重洲カンファレンス(東京都中央区)で開催された。この大会は、教育や塾のこれからを、SRJの会員とともに考えることがテーマだ。
まず、株式会社カルペ・ディエム代表取締役社長の西岡壱誠氏による基調講演が行われた。西岡氏は漫画「ドラゴン桜2」の編集やドラマ「ドラゴン桜」の脚本監修を担当。著書「東大読書」はベストセラーとなっている。その後、会員による「ワークショップ」、「株式会社V‐Growthからのご案内」「日本速読解力協会からのお知らせ」「SRJからのご案内」とプログラムは続き、柏木氏が総括・今後のビジョンを述べたあと、懇親会が催された。
リアルドラゴン桜は何人いるのか?
「少子化が進むとともに、AIが教育に取り入れられるなど、塾業界は大きな転換期を迎えています。そんな今、SRJは、様々なお客様の声に耳を傾け、それらを形にしてまいりたいと考えています。本日はワークショップや懇親会を通じて、多くの方々と絆を築かせていただき、新しい価値を共創できる場にしたいと思います」
2024年秋、同社の代表取締役社長に就任した柏木氏がこのように挨拶。続いて西岡氏の基調講演へと移った。
西岡氏は学年最下位の成績から、東京大学に合格。2年間の浪人生活の中で、自分の勉強法を徹底して見直した結果だ。なお、西岡氏が代表取締役社長を務める「カルペ・ディエム」の社名はラテン語で「今を生きよ」を意味する。
西岡氏は脚本監修を担当したドラマ「ドラゴン桜2」や「御上先生」に関するエピソードなどを軽妙な語り口で紹介。会場からは笑いが巻き起こる。
こうしたアイスブレイクのあと、「リアルドラゴン桜は何人いると思いますか?」という質問を会場に投げかけた。
「偏差値37から東大に合格した生徒、10年以上東大合格者が出ていない高校出身の生徒、大学受験の年に家族が病気になるなど、東大受験が困難になるような問題が発生した生徒など。これらのうち2点が当てはまる生徒を『リアルドラゴン桜』と定義します。毎年3000人いる東大合格者を調査すると、この中の60人が『リアルドラゴン桜』であることがわかりました。私もその中の一人でした」
偏差値35だった西岡氏は高校の先生から「このままでいいのか?」と叱責され、「何でもいいから、今の自分にはできないと思えることをやってみろよ。そうしたら、西岡の人生が変わるかもしれない。いや、西岡の人生はそこから始まるんじゃないのか?」と諭されたという。西岡氏が「では、先生、俺は何をしたらいいですか?」と聞くと、恩師は「東大に行け!」と答えたのだ。
その言葉が心に突き刺さった西岡氏は東大を目指したものの、2年続けて不合格。そこで、学校や塾の先生に頭を下げて、自分の弱点を包み隠さず指摘してもらう「土下座勉強法」を考案。3年目に見事、東大に合格を果たしたのである。
考える時間が激減した子どもたち
「受験勉強は最終的に精神の問題であり、マインドセットによるものが大きいと思います。ですから、生徒さんを前のめりにさせていくことが重要だと考えています。
学校だけでは人間関係が固定化されてしまい、刺激が少なくなりがちですが、塾では学校の先生とは違う大人と触れ合うことができます。そこで塾の先生方にはぜひ、生徒に未知の世界を見せたり、『なれません』という線の存在を教えたりして、マインドセットを促してください。それが塾の価値だと思います」
「なれません」という線は、西岡氏に東大に行くことをすすめた恩師が口にした言葉だ。「野球選手になりたい」「宇宙飛行士になりたい」という夢があっても、「無理だ。なれない」と自分で引く線である。こうして人は、可能性を閉じてしまうのだ。
続いてドラマ「御上先生」で描かれた教師像について触れた。御上先生は生徒に答えを教えず「君たちは子どもじゃない。考えろ!」と檄を飛ばす。
西岡氏は懇切丁寧な参考書や、検索すれば答えが数秒で得られるスマホの登場により、今の子どもにとって考える時間が激減していると指摘した。
「教育環境の転換期という観点からいえば、生徒に考えさせることが求められているのではないでしょうか。答えばかりを教える教育はよくないという思いを込めて、このドラマの脚本監修に携わらせていただきました」
「見えにくい力」に優れた東大生
そして西岡氏は講演の本題に入った。
『認知能力』は『見える学力』であり、知識量や記憶力など共通の尺度を持ちやすいものとされています。一方、『非認知能力』は『見えない学力』であり、精神力や人間性など共通の尺度を持つものが難しいものとされています。
しかし、今はこの二元論だけで子どもの力を測れないのではないでしょうか。例えば、読解力は『認知能力』に近い力だとされていますが、相手の気持ちを考えることだとすれば、『非認知能力』に近い側面もあります。
そこで私は『認知能力』とは『見えやすい学力』であり、『非認知能力』は『見えない学力』だと捉えています。そしてこの2つの間には『見えにくい学力』つまり『見えにくい力』があると考えています。
『見えにくい力』とは、読解力、思考力、判断力、表現力、そして目標設定能力です。東大生と会話をしていると、この力を持っていることに気付かされます。東大生は知識量や暗記力など『見えやすい学力』に優れているというよりも、知識を運用する『見えにくい力』に優れているのです」
そして、西岡氏はこの日、参加した会員に贈呈した著書「なぜ、東大の入試問題は、『30字』で答えを書かせるのか?」の内容について触れた。偏差値が高い大学になればなるほど、記述問題の解答欄が変わってくるという。例えば、「フランス革命について答えなさい」ではなく、「フランス革命について30文字以内で答えなさい」という問いになるのだ。これには読解力が問われる。
そこで、西岡氏はフランス革命について詳しく記された長文をスクリーンに映し出して紹介。これを東大生はまず「国王ルイ14世」や「1789年」といった固有名詞や年号を飛ばして読むという。すると次のような簡潔な文章となるのだ。
「フランス革命は、社会変革運動。当時のフランスは厳しい身分制度に支配されていた。財政は破綻寸前で、一番身分の低い層に対して負担がのしかかっていた。それによって、民衆の不満が爆発し、革命が勃発。新たな理念が打ち出された」
このように東大生はまず、因果関係と構造を理解し「流れ」を掴む。つまり要約するのだ。次に固有名詞や年号など細かい知識を頭に入れていくという。
「この要約ができるようになると、読むスピードもアップし、細かな知識も覚えやすくなるのです。こうした読解力に加えて東大生が持つ『見えにくい力』が、マネジメント能力つまり目標設定能力です。東大に合格した生徒は、模試に向けた目標設定ができます」
例えば「この点数を目指して頑張るぞ!」という「目標点」、「最低限この点数は超えたい!」という「目標最低点」を決めて勉強するというのだ。
生徒に前のめりになる姿勢を
「『見えにくい力』は、しっかりと時間をかけて醸成されていくものです。そう考えるとSRJの『TERRACE』(ICT×自立学習型能力開発プラットフォーム)は、この力を伸ばすのに最適だと私は思います。読解力が養われるとともに、その効果が数値化され、目標設定がしやすくなるからです」
そして西岡氏は会場の会員に次のように呼びかけた。
「『見えにくい力』の根幹にあるのは、先ほどお話ししたように、前のめりになる姿勢です。スマホ全盛の時代ではありますが、粘り強く考え、答えを自分で出せる生徒を育てていただきたいと思います。そのために、あえて突き放すということも必要でしょう。
そして『なれません』という線を越えてきた生徒に対しては『見えにくい力』を意識して指導をしていただけば、東大に逆転合格する生徒が出てくるはずです。皆様とともに60人をはるかに超える『リアルドラゴン桜』を育てていきたいと思います」
来たる夏期講習に向けての作戦会議
続いて「ワークショップ」へ。同社の森氏が司会を務め、次のように説明した。
「皆様には架空の塾の関係者になりきっていただきます。皆様が所属するその塾は開講から5年目で、去年までは右肩上がりで生徒数が増えており、成績向上や合格実績も順調に推移していました。しかし、昨年からは諸々の数字が伸び悩んでいます。考えられる原因として、勢いのある競合塾が去年同じ商圏に開校したことが挙げられます。また、指導水準は年々高くなっているものの、漠然としたマンネリ感があるという課題も抱えています。この伸び悩む現状を打破し、さらに生徒数実績を伸ばすべく、来たる夏期講習に向けての作戦会議を開いてください」
会員は3名から4名でグループを組み、自己紹介をしたのち、その塾の教育責任者、教務責任者、営業責任者、教室スタッフになりきり、夏期講習を成功させるには、どのような準備と取り組みが必要かなど、意見を出し合った。そして最後に夏期講習に向けての教育方針(スローガン)を考え、画用紙に書いて発表した。
次に「株式会社V‐Growthの紹介」へ。ウィザスグループの一員である同社はICT教育の導入から構築後の運用支援までトータルで支援できるサービスを提供している。同社の水谷尚貴氏が登壇し、具体的なサービスについて語ったあと、塾専用のECサイト(製品やサービスを通信販売するサイト)を今年の夏にリリースすると発表した。
「算数的思考力講座」を開講
次に「日本速読解力協会からのお知らせ」へ。一般社団法人である同協会代表理事の秋山和沙氏が登壇し、次のように語った。
「教育改革実践家である藤原和博先生の言葉をお借りしますと、20世紀までは『成長社会』であり、『正解がある時代』でした。誰よりも早く情報を処理できる力が求められる時代だったのです。
一方、21世紀になった現在を藤原先生は『成熟社会』と呼んでいます。正解がない、または正解がひとつでない時代において、自分自身や他者が納得する答えを考える力、知識や技能、そして自分の持っている知恵を実社会で活用する力が求められるようになってきたのです。
そのため、西岡さんがおっしゃった『見えにくい学力』『見えにくい力』にスポットライトが当たり、それが結果的に今の教育改革につながっている状況ではないかと考えています。
さらに『コロナ禍』や『生成AI』によって、社会が大きく変化しているため、次回の学習指導要領改訂にも影響が出てくることが予想されます。その結果、新たな『見えにくい学力』『見えにくい力』が生まれる可能性があるかもしれません」
そう考察を述べたあと、秋山氏は「思考力講座」をフルリニューアルした「算数的思考力講座」を紹介した。
「この講座では総合的な思考力や深く考え抜いて解決する力を養えます。また、深く考えるためには知識や基礎も必要となるため、計算問題のコンテンツも講座に含まれています。ワークショップでは夏期講習のお話がございましたが、『速読解力講座』をベースとして、生徒さんのご状況に応じて、様々なコンテンツを組み合わせてご活用いただけますと幸いです」
その後、同協会理事の安田哲氏が登壇。「TERRACE」受講生や「速読聴英語検定」と「速読解力検定」の受検生、「新国語講座」受講生の学びの成果を紹介した。
今年の大学入学共通テストの自己採点結果を見ると、国語、英語のリーディング、英語のリスニングのいずれも、「TERRACE」受講生が非受講生と比べて高得点を得ていることが明らかになった。
「速読聴英語検定」に関しては、どのレベルの受講生も比較的早い段階でwpm(1分間に読める単語数)が伸び、しかも、そのwpmは維持できている。また、リスニングの成績は半年以上の継続受講で伸びていることがわかった。
「速読解力検定」では、単年度受検者と2年間全受検者の昇級と昇段状況を比較。その結果、前者は計3級分以上昇級している生徒が4.8%だが、後者は12.3%だ。
「新国語講座」に関しては、昨年度紹介した都内私立中学の1年生のその後の受講と成績についての追跡調査結果を発表した。その結果、約2年間で新国語講座を受講している回数が多ければ多いほど、成績も良いという結果がわかった。
最後に安田氏は『算数的思考力講座』について紹介した。
「思考力の基礎となるのは、あれこれと試行錯誤できる力です。この力があれば、与えられた条件を理解し、必要な情報を整理して式に表し、限られた時間内で正解にたどり着くことができます。この講座では、こうした力を伸ばします」
塾とは常に教育の最前線にいる存在
最後のプログラムは「SRJからのご案内」。同社営業本部長の藤原宏氏が登壇し、「塾業界における流行語大賞があるとすれば、今年選ばれるのは『原点回帰』ではないでしょうか」と述べた。
「子どもの将来の幸せを実現できる塾こそが原点であり、それができる塾がこれから生き残っていくのだろうと私は考えています。
そこで、私はChatGPTに『これからの塾とは?』と問いかけてみました。すると『勉強を教える場所から、子ども一人ひとりの生き方を支え、未来の社会への橋渡しをする存在へ。塾とは、時代とともに変化しながら、常に教育の最前線にいる存在です』という嬉しい答えが返ってきたのです。
この答えのように、塾が変化するニーズに的確に応え続けることにより、原点に立ち返って『塾に行っていれば間違いない』『塾こそが我が子を幸せに導いてくれる存在なんだ』といった揺るぎない信頼を取り戻すことが非常に重要だと思います」
藤原氏は、生徒や保護者のニーズが時代とともにどのように変化してきたかを丁寧に解説。そして新たなニーズの一つとして、少子化と労働人口の減少を挙げ、厚生労働省がまとめた『AIと共存する未来』についての資料を紹介した。
「現在の職業の50%がAIに置き換えられるというイメージが社会に浸透しています。しかし、そうではありません。厚生労働省が提唱しているのは『AIを使いこなし、人ならではの業務にシフトするモデル』です。つまり、50%の人が働き口を失うのはなく、人にしかできない仕事に変わることを意味しています。50%以上の仕事がAIに置き換えられた恩恵によって、人は次なるステップに進むことができるのです。
『AIと共存する未来』において人が価値を発揮できる3つの要素として厚生労働省は『創造的思考』『ソーシャル・インテリジェンス』『非定形対応』といった言葉を挙げていますが、文部科学省の用語に翻訳すれば『思考力』『表現力』『判断力』になります。これがこれからの時代を生き抜くために必要な力です。つまり、塾業界はこうした力を子どもたちに育んでいくことがマストではないかと私は確信しています。そして、このニーズに応えられるのが『速読解力講座』『新国語講座』『算数的思考力講座』ではないかと自負しています」
絆をさらに強めていきたい
もう一つの新しいニーズがグローバル化への対応だと藤原氏は力説。現在の中3生が39歳になる頃には、日本の人口の約1割を外国人が占め、外国人の労働力に依存するようになるという。そのため、化粧品メーカーや自動車メーカーをはじめとする日本の大手企業が社内公用語として英語を必須にしているのだ。
「こうした企業では、メールが英語で送られてきます。私たちの世代が習ったように英文を単語ごとに区切って訳しているようでは戦力にはなりません。そこで、実用英語の土台づくりとして『速読聴英語講座』で英語力を磨いてほしいと思います」
続いてSRJの新たな取り組みを紹介。人手不足支援のためのオンライン塾や、「見えにくい力」を見えやすくするツールの提供、協業のための地域別ランチ交流会の開催、LTV伸長支援のためのツールの提供などだ。
最後に藤原氏は「SRJは、皆様とともに変化しながら、そして、皆様とともに日本の子どもたちを育てる教育の最前線に立つ存在として、毎年毎月進化していきたいと考えております」と述べた。
こうしてブログラムは終了。最後に柏木氏が総括を語った。
「西岡さんがおっしゃった『見えにくい力』の育成が、これからの日本の教育を担っていく上で重要なポイントになると思いました。その一つが言語力です。西岡さんの『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか』を拝読し、その中にあった『3つの問いで、たちどころに伝わる自己紹介の作り方』を読ませていただいて感銘を受けました。自分を動物に例え、その動物の特徴を挙げ、なぜ、自分がその動物だと言えるのかを説明すれば、自己紹介ができるというのです」
そして今後のビジョンを次のように述べ、閉会の挨拶とした。
「皆様の塾の強みや他塾との違いをどうすれば、教育現場に深く根付かせ、地域の教育を変えていけるかを、実際に私が教室にお邪魔して、ともに考えていけたらと思っています。そして、本大会のように皆様と絆を強めるイベントの機会をさらに増やしていけたらと考えています。本日は、ありがとうございました」