
(一社)日本青少年育成協会 令和7年度講演会
宮本延春氏「オール1の落ちこぼれ、教師になる」
1994年、日本青少年育成協会(増澤空会長)は、内閣府(旧総務庁)所管のもと、内閣総理大臣によって社団法人として許可され、青少年指導者の養成・研修、青少年の育成に携わる者の意識啓発、青少年の社会参加活動の振興、青少年育成の在り方についての調査研究等の事業を行っている。
2025年5月31日に、大阪大学中之島センターにて、令和7年度総会を開催。同時に教育界のトップランナーを招いて講演会を開催した。講師は、過酷な生活環境の中でも希望を見出し、オール1から教師になった宮本延春氏。理事の木村剛氏の開会の挨拶後、木村吉宏副会長が「教育に従事する者には非常に心に刺さる内容になっています」と挨拶。最後は堀川直人常任理事の言葉で会を締めくくった。
ダメな子なんていない
時間が必要な子がいるだけ
皆さんは普段子どもと関わっていらっしゃいますよね。どんなことを考え、何を思い学校に通っていらっしゃいますか。私は何を考え、何を思っていたか、そこからお話しします。私は学校も勉強も大嫌いでした。私の家族構成は父、母、私。無口で気弱、人とコミュニケーションをとるのが苦手な子どもでした。
そんな私は、ボス的な子に目をつけられイジメを受けるようになりました。心優しい母には言えず、父はこんな人にはなりたくないという反面教師のような人でしたが「イジメられてるから学校に行きたくない」と話すと、父は「やられたらやり返せ」と言うだけ。今思うと、『共感的理解』で接してほしかった。
青いボールを受け取ったら青いボールを返す。楽しいは楽しい、悲しいは悲しい。必ず肯定から始めてください。人生経験豊富な大人の価値観と子どもの価値観は違います。気持ちに寄り添い、その子がどういう状態なのか、想像を働かせてください。
「よく話してくれた。何かあったら全部お父さんに言ってこい。一人じゃないぞ」、そう言ってもらえたら、勇気をもって学校に行くことができたと思います。それからの私は勉強にも身が入らず、九九で挫折。ずっと0点を取り続けていました。私は、自分に適した学習方法、習得方法を知りませんでした。やっても出来ない『学習性無力感』をさんざん経験してしまった子どもは、自分でダメな人間だと思ってしまいます。
けれども世の中にダメな子、できない子はいません。それぞれ『認知特性』があり、適した学習方法は一人ひとり違います。漢字や公式、英単語など、覚えないといけないことはたくさんありますが『言語優位』の子は文字として、『聴覚優位』の子は音とリズムを使い、『視覚優位』の子は視覚情報をつけてあげると覚えやすいです。この子はどういうのがいいだろうと考えてあげてください。ダメな子なんていません。時間が必要な子がいるだけなのです。
中学に上がり、5段階評価で最初にもらった通知表はオール1。うっすら世の中が見えてきます。絶望していました。夢や希望を持ってもかなえられないんだから。進路指導の先生に「このままでは高校は無理だよ。就職でいいのか」と言われても「なんでもいいです」と答えるだけ。
中学卒業後、建築現場で働きました。まさに3K。体力的にもきついけど体罰が当たり前の世界でした。15歳の頃、母が大腸がんで亡くなります。親戚もいなかったので、父と二人だけの家族になりました。当時私の給料7万円ですべてをまかなっていました。やがて父親も入院。その後、食事の支度から何から何まで全部ひとりでやっていました。
小さな自己肯定感を積み重ねること
18歳の頃、父親が亡くなりました。その頃、私は、体罰が当たり前の怖い親方のもとでは、幸せになる未来が来ないことに気づきました。オール1で親もいないし保証人もいないのでどこにも雇ってもらえない。1ヶ月の生活費が13円、タンポポの葉やアリを食べてしのいでいたときもありましたが、仲のいい友達がバイトに誘ってくれました。そこで大変愛情深く親切な親方と出会い、人生が大きく変わりました。「うちに来て飯を食って帰れ」と言ってくれたり、息子さんのおさがりの洋服をくれました。私は親方に喜んでもらいたい一心で仕事に励み正社員になりました。
23歳のときNHKの番組でアインシュタインのことを知り感銘を受け、本屋さんに行って宇宙や物理の本を次々と読み漁ります。物理学は数学という言語で書かれている。小2の勉強からやり直し始め、24歳で夜間定時制高校に入学。たくさんの支えてくれる人たちのおかげで名古屋大学物理学部に合格。大学院まで進み素粒子の研究に打ち込みました。小中学校ではつらい経験をしましたが、そこから学んだこともたくさんあります。学校が大嫌いで勉強ができない子どもの気持ちも人一倍解る。そして自分を生かせる職業は『教師』だと思い始めます。そして学ぶ楽しさや夢を持つことの大切さを教えてもらった母校に恩返しがしたいと教職に就きました。
自己評価と他者評価があります。〇をたくさんもらった子は自分に〇を出せますが×しか出されなかった子は自己評価が低いです。自己肯定感を育むためには、小さな自己肯定感を積み重ねることが大事。〇をたくさん出してもらった子は自分にたくさん〇を出せます。だから〇をたくさん出しましょう。
Beingを大切に、無条件で愛する
人を評価する方法は3種類あります。Doing何をしたか(子どもたちは何点取ったか)Having何をもっているか(資格や技能、会社に何をもたらしたか)。世の中のほとんどはこの2つです。3つめはBeing。あなたにとって大切な人、最大の価値はなんですか?生まれたての赤ちゃんはなんにもできません、なんにももっていません。でも愛おしい。存在そのものが最大の価値だからです。
私がなぜグレなかったのか?オール1のダメ人間で、死のうと思うようなイジメを受けていた。家庭では父から褒められたことはなく全部ダメだし。一方で母は、私を無条件で愛してくれました。その思いを感じていたからグレなかった。また、愛情深い親方は私の存在を一番にしてくれた。皆さんの周りのお子さんたちのBeingを一番大切にしてあげてください。
目には見えませんが右のこめかみに〇出しスイッチがあります(笑)。オンにしてください。〇を出そうと思わないと、だいたい×出しになります。たくさん〇を出し、あなたのいいところはここだよと伝えてあげてください。
子どもの自尊心が本当に満たされるのは、頑張ったことを褒められたときではなく、いい点を取って褒められたときでもない。失敗しても悪い点を取っても抱きしめてもらったときです。Beingを大事にしてもらった子どもの力はすごいです。子どもたちの笑顔の花を咲かせてあげましょう。
常任理事の堀川直人氏挨拶
軽妙・軽快なトークで幼少時代の厳しく過酷な話をポジティブに語っていただきました。職責とはいえ、我々は日々、目先の子どもたちの志望校合格に追われています。
本日のお話は、教育の原点、本質の内容でした。あらためて自分自身は何のためにこの仕事をしているんだろう、目的やBeingは何だろうと考えさせられました。厳しい経営環境で売り上げのことや社員のことなどを考えないといけない中、日本青少年育成協会における様々な活動を通して、我々は考える機会をいただいています。本日も大変気づきを得られました。宮本先生、本当にありがとうございました。