スタディラボ サミット
つながる教育×ひろがる世界 ’24 Winter
12月1日(日)、教育ICTコンテンツの開発や学習塾の運営を行う、株式会社スタディラボ(東京都文京区)主催の「スタディラボサミット」が、AP日本橋(東京都中央区)で開催された。テーマは「つながる教育╳ひろがる世界」だ。
まず、同社代表取締役の地福武史氏と同社取締役の横田保美氏が講演。その後、スペシャル座談会、続いて同社上席執行役員の峰嶋聡子氏や株式会社ウィザス執行役員の堀川直人氏、株式会社市進ホールディングス代表取締役会長の下屋俊裕氏が講演を行った
塾業界の現状 2030年に向けて
株式会社 スタディラボ 代表取締役 地福 武史 氏
テクノロジーは教育を大きく変えます。コロナという突然のパンデミックによって、通信革命が10年ほど進みました。ほぼ無限にある情報にアクセスができるようになり、検索エンジンが教育を変えているのです。しかし、情報を評価する個人の能力は変わっていません。自分の考えを発信するスキルに長け、SNSなどを使って大量に情報を発信する人は増えていますが、その情報が果たして正しいのか見極められない人があまりにも多くなっているのです。これは世界中でいえることです。
そのため、デジタル先進国といわれたフィンランドが今、教育の軸足をアナログに戻そうとしています。オーストラリアは16歳未満の子どもがSNSを利用することを法律で禁じました。一方で、学校や大学をはじめとする従来の教育構造はあまり進化していません。
その現状のもと、私たち教育産業の地位はますます高まっています。これからは、信頼できる教育機関がかつてないほど重要視され、社会から求められていくと思われるからです。
一方、世界各国で教育費が高すぎるという問題もあります。そこでコストを下げて、もっと良い教え方、学び方を見つけ、成果を向上させようとしているのが世界共通の課題でしょう。
そのため、教育はグローバル産業になり、国内だけのものではなくなっています。私も10年前までは、自分が海外で仕事をするとは夢にも思っていませんでした。
こうした動きから、私たち民間教育が2030年に向けて進むべき4つの指針を考えてみました。「何を水平に展開していくのか」「何を垂直に展開していくのか」「官民のグレーゾーンにどう切り込むのか」「どうやってグローバルな成長を遂げるのか」です。
新時代の教育ビジネス展望 大衆社会から小衆社会へ
CHANCE、CHANCE、CHANCE!
株式会社 スタディラボ 取締役 横田 保美 氏
日本では戦後から大衆社会がずっと続いてきました。しかし、70年代から小衆化が始まりました。高度成長期に入って豊かさが大衆社会を小衆社会へ切り替えたのです。90年代からの小衆化の背景には、格差があります。世代間ギャップや富の二極化という格差が第二ステージの小衆化を後押ししたのです。
一方、教育だけは小衆化しませんでした。確かに70年代に雨後の竹の子のように数多くの塾が生まれ、80年代に進学塾が活発になり、90年代には個別指導が登場しました。小衆化のような動きは見えているかもしれませんが、実は変わっていません。この背景には戦後の日本の社会が単線画一的教育制度と受験主義によって進行してきたことがあります。
しかし、かつて経験したことのない超少子化の波がこれからやってきます。小学生は2027年から、中学生は2030年から、高校生は2033年から激減が始まります。それなのに、いつまで受験主義、学歴主義の大衆教育社会が成立するのでしょうか。過去の経験や手法は少子化を前に何の役にも立ちません。
反面、地福が冒頭で申し上げたように、教育の価値は高まり続けています。これからは、教育によって様々な能力やリテラシーを身につけなければ生きていけない時代になるからです。もう、従来の大衆型マーケティングは通用しません。ですから、民間教育はそろそろ小衆社会に向けたマーケティングに標準を合わせていくべきではないでしょうか。
私がこれからの教育ビジネスで重要視すべきだと思う要素は「ローコスト&ハイパフォーマンス」です。塾の規模は、もう武器になりません。例えば、従来の学習塾は広い床面積、数多くの講師、高い家賃、大量の広告投入が必要でした。こうした設備投資を見直し、優れたコンテンツやシステムなどは他社を活用しましょう。自前で作る必要はないのです。そして公教育である学校と競うのをやめ、デジタルを武器に家庭学習も活用するなど、最小の経営リソース投入で、最大のパフォーマンスを獲得しましょう。
[スペシャル座談会]
プロジェクトリーズ 株式会社 専務取締役 石田 栄治 氏
教育開発出版 株式会社 代表取締役 糸井 幸男 氏
株式会社 ウィザス 執行役員 堀川 直人 氏
石田 地福社長から水平展開と垂直展開というお話がありました。弊社でいえば近隣地域に教室を拡大させていくことや、今の学習塾という枠を離れて通信制高校など他の分野に目を向けてみるのも水平展開だと思います。垂直展開は、低学年からプログラミング教育を始めるなど学年の幅を広げ、減少する生徒数を補っていくことが考えられると思います。
糸井 垂直展開でいえば、私は学習塾が受験に対する学力ではない新しいニーズを保護者に向けて発信していくことだと考えています。そのひとつが、高校や大学に合格するための英語力ではなく、コミュニケーションに必要な英語力です。
超少子化は深刻な課題ですが、私は2年前に孫が生まれて強く実感しました。愛する子どもの成長を願う親の気持ちは不変だということです。学習塾が滅びることはありません。
堀川 私どもウィザスグループが運営する通信制の第一学院高校と、学習塾部門を比較すると、受講単価が圧倒的に第一学院高校の方が高いことがわかります。学習塾市場が縮小していく中、サービスオプションをつけることによって、受講単価を上げることができたのです。シェアを拡大するだけでなく、LTVを高めることで、低学年から大学受験まで12年間にどのようなプラットフォームを構築していくかがこれからの経営課題となると思います。その点、リード進学塾様は中学部から高校部への進級率が7割だとお聞きしました。どのような工夫があるのでしょうか。
石田 今は大学入試の6割近くを学校推薦型選抜や総合型選抜が占めています。最難関大学を目指して共通テストまで頑張る生徒だけをメインターゲットにしていると、進級率が縮小してしまいます。そこで、学校推薦型に寄り添うための論文の対策講座を、スタディラボ様のFeelnoteを活用して用意しています。今は全入時代であり、大学に進学する生徒の数は増えています。こうして行きたい大学・学部に進学するためのサポートをきめ細やかに行う指導をして間口を広げれば、多くの高校生を集めることができます。
糸井 リード進学塾様はオレコを導入することで先生方の労働環境も大きく変わっています。大切なのはデジタルと紙をどう上手に融合させるかだと思います。紙には紙の良さがありますから。
堀川 デジタルであれ、アナログであれ、私たちが最終的に目指すべきは、社会に出て活躍できる人材を育成することです。そのためにも私たちは英知を結集して、塾業界を盛り上げていきたいと思います。
スタディラボ 今後の展望
株式会社 スタディラボ 上席執行役員 峰嶋 聡子 氏
弊社は浜学園様との合同出資により「株式会社クロスビュー」を設立し、Feelnoteの販売を始めました。これは生徒が学びや活動を記録し振り返ることができるSNS型ツールです。講師の先生方は生徒さんの投稿を見てコメントをしたり、「いいね」をつけたりするなどのリアクションができます。導入していただいた塾様からは「日々の活動の成果が可視化され、総合型選抜や学校推薦型選抜にチャレンジする生徒が増えた」という声をいただいています。
また、エプソン様と共同で開発したスタディワンはリリースから1年以上が経ちました。そこで、お客様のご要望にお応えしていくためのアップデートをいくつか予定しております。
オンライン英会話に関しては「高校リード問題集」に対応したレッスンカリキュラムが完成いたしました。ご興味のある方は、ぜひ営業担当までお声がけいただければと思います。
変わる教育業界、つながるビジネス
NAYUTAS創業者・
株式会社 アグニス 代表取締役 飯田 裕紀 氏
私は塾業界の方々に向けた講演会の冒頭で「常識は妄想です」とつねに語っています。妄想の一つが「塾は英数国理社だけ教えるビジネスだ」ということです。この妄想を疑問に感じた私は音楽に注目し、ボイストレーニングやダンスなどのマンツーマンレッスンが受けられるエンタメスクール「NAYUTAS」を開校しました。現在、70校舎を展開しています。開校待ちを含めると151校舎です。生徒が集まらなくて撤退した校舎は1校もありません。
2024年にはeスポーツスクール「AFRAS」を開校しました。こちらは開校待ちを入れると52校です。7歳から85歳までの方々から体験入学の問い合わせが来ています。最初の入会者は2~3歳の社会人女性でした。子どもだけでなく、学びたい大人がたくさんいるのです。
私は仲間を増やして、様々なビジネスに挑戦し、ともに学習塾業界を盛り上げたいと思っています。一緒にワクワクしながら夢を追いかけましょう。その情熱が生徒にも社員にも伝わり、新しい可能性を生み出すはずです。
株式会社 ウィザス 執行役員
堀川 直人 氏
今年、不登校の小中学生の数が34万人に達したそうです。不登校児は年々20%から25%ずつ増えていくと言われています。こうした子どもたちの受け皿として、当社が運営する第一学院高等学校のような通信制高校の設立に参入する企業も増えてきました。これからは小中学部を含めて、通信制には可能性があると思います。
海外に目を向けるのも選択肢の一つです。当社はインドネシアに現地の子どもたちを対象にした学習塾を2校つくりました。
今、当社の拠点である大阪でも近隣の学習塾や個人塾がどんどん淘汰されていき、地域の中で輝いていた塾の経営が非常に厳しくなっています。こうした中、限界を打破するために、他にもグループ化やアライアンスや他社とのコラボレーションがあると思います。飯田社長がおっしゃっていたように、今までの常識を覆し、新しい発想でこの難局をみなさんとともに乗り越えていきたいと思っております。
株式会社 浜学園 DX推進本部長
長谷川 毅 氏
「最上の学びで、社会の伸びしろに挑む力を育てる」。当社ではこれを新たにグループミッションに制定し、この認識を社員全員が持とうという動きになっています。
こうした未来に向けた教育の一環として、生徒全員にAIによる非認知スキルトレーニングを導入しました。使用しているのは、株式会社サマディ様の「WEBSTAR」というツールで、生徒は自宅で受講します。この学びによって知識や経験だけでなく、想像力や創造力も駆使して自分なりの解釈・判断をして解答に表現したり、課題に向き合ったりする力を磨くことができます。これからは大学入試も総合型選抜が主流になると思われます。当塾から灘中学校に進んだ生徒も総合型選抜で東大や京大を受験する生徒も出てくるでしょう。非認知スキルは入試だけでなく、大学での学びや就職活動など、その後の人生で必要となります。
当社は今年で65周年を迎えました。生徒が成人してから、また、それ以降も当塾に関わってもらえるように、成長を見守れる企業でありたいと考えています。
将来への投資
株式会社 市進ホールディングス 代表取締役会長 下屋 俊裕 氏
生徒が通い続けられる塾であるためには、まず、力のある講師が必要です。しかし、その確保が難しいのが現状です。そこで将来の投資のためにAIやICTとの共存が必要だと思われます。授業もすべて映像あるいはオンラインで済ませ、一人の講師が徹底して生徒に寄り添うことが理想だと感じています。映像なら生徒が繰り返して授業が聞けるというプラスの面もあります。一人の講師が、生徒がきちんと授業を見ているか、理解がどこまで進んでいるかを把握し、授業の後の声がけなどのサポートができれば、人材不足をカバーできるはずです。
また、これからは早期からの英語教育が塾に大きなメリットをもたらすと考えられます。英語に早くから慣れ親しめば「英語耳」が手に入り、「英語脳」で考えられるようになるからです。そのためには英語を話す不安感を取り除くとともに、双方向のコミュニケーションが必要です。どちらも脳の働きを活性化させるためです。双方向のコミュニケーションはオンラインでも有効です。また、英文を書くためには、早期から日本語の文章を書くトレーニングを積んでおくことも重要だと思われます。
日本語にせよ、英語にせよ、手で書くことによって記憶が定着します。ですから手元に紙を置いて、手書きで問題を解かせることは絶対に必要です。重要な事項ほど紙に対しての筆圧が高まり、目で見るよりも手の感触として記憶に残るためです。この紙とデジタルの融合は、在宅学習の可能性を高めます。在宅学習ができるようになれば、通塾日以外に学習時間が確保できます。家の近くに塾がない、コロナなどの感染が心配であるといった問題も解決されるでしょう。スタディワンなら、デジタルと紙を融合させた在宅学習が可能となります。
このように生徒が通い続けられる塾のために、AIやICTにどんどん投資をしていただきたいと思います。
[特別講演]
公益社団法人 全国学習塾協会 会長 安藤 大作 氏
塾と聞くと「受験戦争を煽って、保護者からたくさんのお金を取って、教育とはいえないのではないですか?」という方々も一定数おられるわけです。参議院議員の先生は「塾があるから子どもが睡眠不足になり、親子の会話が減る」と声高に訴えていました。私はその先生のもとを訪れ、「塾産業で30万人が働いています。影響力のある国会議員の先生には十分に留意していただきたい」と伝えました。
このように永田町でも塾は偏差値一本勝負であるなど多くの誤解があります。そのため、私は「日本の教育は、公教育と民間教育の両輪で担われています。子どもたちに目を向けると、学びたいこと、目指したいことが一人ひとり違います。そのための教育を誰がするのですか?公教育をカバーできるのは、民間教育なのです」と議員の先生方に語り続けています。
さて、今年の6月には教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律ができました。いわゆる「日本版DBS」で、2026年12月までには施行されます。この施行にあたって有識者会議が何度も行われています。
私はこの会議に「多くの塾やスイミングクラブの関係者を絶対に参加させてください」という要望書を、子ども家庭庁大臣室を訪問して手渡しました。
全国学習塾協会は他にも官民連携事業に力を注いでいます。今、学校の教員数が足りていません。特に小学校では初任者が担任を持つことが多く、中にはプレッシャーに耐えきれずに辞めてしまう先生もいます。労働環境が悪いと感じ、学校の教員になりたがらない大学生も増えています。
そこで民間教育が学校と連携していくことがこれから求められてきます。学校や行政からすれば、信頼できる塾にお願いしたいはずです。このマッチングも全国学習塾業界が担っていきたいと思います。このように学習塾には可能性があります。ぜひ、全国学習塾協会に入会して、力を合わせ、業界全体の発展に尽くしていただきたいと思います。
[閉会の挨拶]
株式会社 スタディラボ 代表取締役 地福 武史 氏
皆様、長時間にわたりまことにありがとうございました。冒頭で私は水平展開の話をしました。水平でいえば、この2年間で6校の教室を開設しています。垂直展開では、浜学園様との合同出資と、それによるFeelnoteの販売がありました。他には英会話スクールをフランチャイズ展開したいと考えています。官民という観点では、首都圏の学校内学童の受託企業へのサービス提供も検討しています。
また、スタディワンやFeelnoteのグローバル展開も視野に入れ、現在、ニューヨークでの実証が始まっています。海外には25万人ほど日本人のお子さんがいらっしゃいます。そのお子さんたちの学びに役立ててもらいたいです。
さらに最先端のプロジェクターを導入した教室の展開にも意欲をもっています。スタディワンの開発で共同したエプソン様は世界でもトップレベルのプロジェクター技術を誇っています。その一例が森ビルやお台場のデジタルアートミュージアム「エプソン チームラボボーダレス」です。
エプソン様は特殊な技術によって、離れた場所にいる人が等身大で目の前にいるように映し出され、違和感なく会話ができるプロジェクターを開発しました。
これなら海外の人とも、対面と同じ感覚でコミュニケーションができます。
当社が注目しているのが、このプロジェクターです。これを使えば、教室の半分を縮小できると考えたからです。1人の教師が何教室もの授業を、あたかも教壇に立って教えるのと同じ感覚で行えます。グローバル展開にも有効です。この最先端の取り組みを、会の結びに紹介させていただきました。
来年は、新しい形式でより大きな規模でスタディラボサミットを開催できればと考えています。引き続き皆様のご支援を賜れれば大変ありがたく存じます。