
教育資源としての民間教育 第14回
公益社団法人 全国学習塾協会 安藤 大作 会長
ほんのわずかな不注意や油断から、大きな失敗や損害に
学習塾は、これまで長きにわたり消費者のニーズや目的に合わせて自由で魅力ある教育サービスを提供してきました。その結果、いま、学習塾の市場規模が1兆円に迫り、生徒数は1300万人を超えています。
歴史をひもとくと平成5年の日本産業分類に「学習塾」が新たに設定されました。それまでは学習塾という名称では産業として扱われていませんでした。昭和の終わりから平成にかけて学習塾は産業として名実ともに独立しました。
一方で、全国学習塾協会が昭和63年に通産大臣の許可を得て設立された理由の一つとして、消費者との契約や情報開示などの公的なルールが存在していないことに対応するため、「自主規制規約」という自主ルールを業界が自ら定めたという事実がありました。平成11年訪問販売法(のちの特定商取引法)が改正され、「学習塾」が家庭教師派遣や語学教室などとともに法律の対象業種となったことを考えると、当時の自主規制規約の制定がいかに革新的であったかと思いますし、同時に社団法人全国学習塾協会が設立されたことはたいへん象徴的な出来事だと思います。
当協会が、「成熟した産業としてコンプライアンスを重視した高い品質を確保すること」を目的に主要事業に注力している理由の根源はこのことにあると言えます。
また、消費者庁サイトによると訪問販売法改正の理由は、不適切な勧誘・不十分な情報提供によって生じるトラブルや、中途解約が認められないこと、精算ルールが不明確なことによるトラブルが増加していることだった、とあります。
自主規制規約は法改正や消費者との取引の多様化に合わせ、「学習塾業界における事業活動の適正化に関する自主基準(以下「自主基準」)」として現在に至っています。
このように学習塾が産業として社会に認知された背景には、学習塾が子どもたちの学力向上に優れた教育資源として存在することが挙げられますが、と同様に、成熟した産業としてコンプライアンスを重視した高い品質を確保していることもその条件の一つであるといえるのではないかと思います。
前掲しました自主基準の実施細則に、合格実績に関する次のような基準が書かれています。
① 合格実績に含むことのできる塾生徒の範囲を決定するための基準
② 合格実績に含むことのできる受講内容
③ 合格実績の広告に明示すべき事項
蟻の一穴天下の破れ――という古い言葉があります。ほんのわずかな不注意や油断から、大きな失敗や損害に至ることのたとえだそうです。
合格の春。自主基準が、破れから天下を守る防波堤であることに思いを強くしているところです。