
SRJ 主催 学習塾経営セミナー「戦略会議」冬の陣 学習塾の多角化経営・M&A
昨年11 月14 日(月)、(株)SRJ主催の「学習塾経営セミナー『戦略会議』冬の陣 in 横浜」が創英ゼミナールを運営する(株)創英コーポレーションの本社がある神奈川県横浜市、横浜ランドマークタワーで開催された。今回のテーマは「学習塾の多角化経営とM&A」。
M&Aの成功体験を持つ(株)ケーイーシーの小椋義則社長と(株)創英コーポレーションの豊川忠紀社長が基調講演を行い、その後、この日参加した22 塾の塾長たちが今最も力を入れて取り組んでいることなどについて情報交換を行った。
対象企業の社員と信頼関係を築き、モチベーションをアップ
まずは(株)SRJの堀川直人社長が挨拶。
「有志の皆さまと次世代の教育について語り合おうではないかということで、数年前から様々な形でこうした戦略会議を定期的に開催しております。今回の基調講演ではなかなか普段聞けないような話もあると思いますので、ぜひとも塾運営の参考になさってください」
最初に基調講演を行ったのは(株)ケーイーシーの小椋義則社長。昨年10月14日(金)には(株)アンドリュー志学館と世界初の企業結婚式を挙行し話題になったが、M&A後、どのように業績を回復していったかについて、講演した。
端的に言うと、アンドリューの社員と信頼関係を構築し、モチベーションをアップさせることだ。
「ずっと伝え続けていたのは、夏期講習も絶対成功させなければいけないということ。これを成功させることによって失われていた自信を取り戻すことができるからです。要するに成功体験を積ませること」。
信頼関係を築くには、考え方の共有──具体的にはやり方の共有と成果の共有をしていく流れが非常に重要とのことだ。成功への道筋を共有していくために、現状の数字をもとに、どうすれば成功するのかを伝えていくという。
モチベーションをアップさせるためには3段階あり、3つのポイントがあるという。
「目標の魅力をきちんと伝えているか、『やれそうだな』と思える目標実現性を伝えられているか、そして、やらなければいけないという危機感を伝えているか、この3つのポイントを盛り込んでいきます。今のアンドリューの経営状況がどんなものなのか、このままいくと売上げはどうなるのか、また、これを黒字にするためには経費をどうするのかなど、すべて詳細にまとめて2年間での黒字化計画を立てました」
生徒の増加率なども数字で表し、効果が出ていることを実感させ、時折独自のイベントを行いながら、さらにモチベーションをアップさせて成功に導いていったという。
M&Aの2つの条件と成立後着手する2つのこと
次に基調講演を行ったのは、創英コーポレーションの豊川忠紀社長。これまで法人塾を3社、個人塾を4社M&Aし、すべて黒字化して成長させている。
M&Aというと、銀行や専門業者が仲介していると思われがちだが、豊川社長によると、銀行や専門業者の仲介で成立したM&Aは1件もなく、すべて直接交渉で成立させたという。相手の塾は長年地域に貢献しているので、社会的評価としての優待も考えながら話を進めていくという。
「私たちがM&Aをするにあたって、2つだけは必ずいつも話しています。1つは、希望するのであれば社員全員を無条件で雇用するということ。給与も今の条件を保証して私たちが引き継ぐということです。もう1つは、創英ゼミナールというブランドと個別指導という指導法は統一させていただくということです。この2点については譲ることができません」
2014年にM&Aが成立したKGC教研とプレップナビグループは、共に15年3月から新たなブランドと指導法でスタートしているが、KGC教研は半年、プレップナビグループは約3カ月、そのための準備期間を要している。M&Aが成立すると、すぐに2つのことに着手するという。
「1つは社員の個人面談です。私が全社員と一人ひとり、1時間ちょっと時間をかけて面談します。今どんな仕事をしているのか、どんな人生を歩んでいきたいのかなど、仕事感も含めて社員の話を聞きます」
もう1つは、移行プロジェクトの始動だ。「面談をしてもなかなか言いにくいことは言えないので、数名の社員の方に、他の社員の方々と私たちの橋渡し役を務めてもらいます。その後私と運営部長は毎週社員研修に行きました。私たちの考え方や今後やりたいことなども伝えます。M&Aを発表したときは私たちを敵視したような表情だった社員でしたが、そこから徐々に氷を溶かしていき、一緒に頑張っていこうと思えるところまで時間をかけてやっていきます」と豊川社長は語る。
AかBかではなく、A+BでCをつくる
「M&Aは確かに会社法では買収ですが、〝統合する〟というマインドでチラシにも打ち出しましたし、実際そう思っています。3社が統合して共に良くなっていくことが私たちのテーマです。創英ゼミナールという屋号と個別指導という指導法は変わりますが、そのやり方は押しつけません。つまりAかBかではなく、A+BでCをつくろうと、当時私は連呼していました」
14年12月には新年度の方針発表を行い、15年1月には保護者と生徒に案内をスタート。
「KGC教研はその案内に〝生まれ変わります〟と打ち出し、〝指導システムにより塾名を変更します〟と表現しました。〝新指導システム説明会〟を案内し、〝教室も先生も変わりません。ただ、塾名と指導方法が変わります〟という打ち出し方をしました。だから人事異動もせず、校舎も変えていません」
打ち出し方などの効果もあって、3月になっても94.3%の生徒が継続したという。「15年3月にはKGC教研は561名、プレップナビグループは167名の生徒数だったのが、今はそれぞれ1631名、480名に増え、約3倍になっています。出店と移転はほとんど行っていません。M&Aについてご相談があれば、ぜひお問い合わせください」と豊川社長は言う。
旧KGC教研の統合委員会メンバーで、現在は創英ゼミナール・管理部次長の益子一之氏は、「M&Aが発表されたとき、いよいよ来たか、自分たちはどうなるのかという思いと、もしかするとこれによって良くなるのではないかという思い…不安と期待が入り交じった気持ちでした」と、当時の心境を語る。そして「業績もかなり上がっているので、当時の所得より2~3割はみんなアップしています」と笑顔で述べた。