
(株)メイツ主催 オンラインセミナー
笑い飯・哲夫氏と考える「教育のオモロさ」
「教える」ではなく「場をつくる」
定期テスト対策・英検対策・高校入試対策などを一つにまとめたオールインワン型のICT教材「aim@」を開発・提供する株式会社メイツ(遠藤尚範代表取締役社長 東京都)(以下、メイツ)は、5月20日、お笑いコンビ「笑い飯」の哲夫氏を招き、オンラインセミナーを開催した。
塾講師や家庭教師の経験を持つ哲夫氏は2014年、教育格差への問題意識から大阪市内で激安塾「寺子屋こやや」を開設。セミナーの第一部では、哲夫氏が塾を立ち上げた経緯や教育観について語った。続く第二部では、メイツ代表の遠藤尚範氏との対談を通して、これからの学習塾に求められる役割や、地域に根差した教育のあり方について議論を深めた。「教える」のではなく、「学びたくなる場をつくる」――その実践に迫る。
[第一部] 激安塾「寺子屋こやや」誕生の背景
塾は〝第3の居場所〟であってほしい
月6万円の塾代に驚いて始めた「激安塾」
僕が「激安塾」をやりたいと思ったきっかけは、15年くらい前に吉本興業の社員さんと話していた時でした。その方が「小5の息子の塾代が月6万円かかってる」と言っていて、ほんまに驚いたんです。僕が子どもの頃に通ってた塾なんて月3000円くらいでしたからね。近所のおばあちゃん先生が教えてくれるような、小さな塾でした。「友達も行くから」って感じで通わせてもらって、学校とも家とも違う、すごく居心地のいい場所で、それが僕の中の「塾」のイメージでした。
「お金のある家庭の子しか通えへんやん!」って思い、それなら、親の所得に関係なく、誰でも来られる「第3の場所」を作りたいと思いました。学校でも家でもない、でも安心して勉強できて、大人がちゃんと見てくれる場所です。ちょうどその頃、大学時代の友達で、もともと塾講師をしていた子が仕事を辞めていたので、「こういう塾、一緒にやらへん?」と声をかけたのが始まりです。もともと教育には興味があって、教職課程や教育実習も経験しました。免許は取れませんでしたが、教育に関わりたいという思いはずっとどこかにあったんやと思います。
面白い大人がいるから、子どもは学びたくなる
うちの塾では、学校みたいな授業はやっていません。子どもたちがそれぞれ苦手なところを、自分で勉強して、それを分からん時に大人がサッと教えてあげる、そんな場所です。だから、「勉強を教える」というより、「勉強できる環境を作る」ことを大事にしています。勉強が分かるようになると、学校も楽しくなりますからね。
今は後輩たちが中心になって運営してくれていて、僕はたまに顔を出すくらいですが、本当にいい生徒さんたちが来てくれています。保護者の方から「こんな場所があってよかった」と言ってもらえるのは嬉しいですね。
僕が塾に行くと、まず字や姿勢を褒めたり整えたりします。勉強の前に心を落ち着けることも大事やと思うからです。先生たちには「面白く教えてな」ってよく言っています。うちでは芸人の後輩が先生をしてるんですけど、実はすごくいい組み合わせやと思ってるんですよ。子どもって、芸人にとっては一番ウケにくいお客さんなんです。知識量も分からへんし、ごまかしも効かへん。そんな相手に「面白い」と思ってもらおうとしたら、自然と教え方も工夫するようになる。芸人にとっても勉強になるし、子どもたちにとっても、堅苦しくない大人から学ぶのは楽しいですからね。
勉強も仕事も、楽しくないと続かへんと思うんです。僕自身、学生時代に出会った「面白い先生」にはすごく影響を受けました。歴代天皇をスラスラ言える先生や、中国の王朝を全部覚えている先生に「うわ、すげえ!」と思ったんです。だから僕も、子どもたちの前で覚えたことを披露するんですよ(笑)。「そんな知ってんねや!」って子どもたちが驚くと、それだけで勉強への興味が湧くこともありますから。もちろん、分からない問題があったら「分からへんから調べるわ」って普通に言います。先生でも間違えることはある。でも、それを素直に認められる大人の方が、子どもも安心すると思うんです。
塾は「家」と「学校」の間にある第3の居場所
僕は、子どもには「家」と「学校」以外に、もう1つ場所が必要やと思っています。2つだけやと息苦しくなる時がある。だから、安心して行ける「第3の場所」が大事なんです。そこにはちゃんと大人がいて、勉強だけじゃなく、ちょっと背伸びした話もできる。昔の僕にとって、それが塾でした。以前は帰りにお菓子を配っていて、それを楽しみに来る子もいました(笑)。
今、僕の想いに共感してくださる方が増えて、全国で教室が増えていますが、FCとして大きく広げたいという気持ちはあまりないんです。昔は地域全体で子どもを見守る空気があったじゃないですか。親でも先生でもなく、「近所のおじいちゃん先生」「おばあちゃん先生」みたいな人が、気軽に教えてくれる。そんな空気がまた生まれたらいいなと思っています。
今は「教育格差」という言葉もあるくらいで、親の収入によって子どもの学力に差が出てしまう時代です。でも、本当は所得に関係なく、教育の機会は平等であるべきやと思うんです。将来、その地域を支える子どもたちを地域全体で育てていく循環ができたら、すごく素敵やなと思います。うちの卒業生が後に「先生やりたいです」ってアルバイトに来てくれたことがありました。楽しかった思い出や、「いい場所やった」という記憶が、その子の中に残ってたんやと思うんです。そうやって循環していくのが、僕にとって一番嬉しいことかもしれません。
[第二部] 笑い飯・哲夫氏×メイツ遠藤社長
教育のオモロさと塾の可能性を語る
遠藤 まずは私と弊社の紹介からいたします。弊社は、私が20歳の大学生だった頃に仲間と立ち上げた学習塾からスタートしました。当初は大学受験指導を行っていましたが、運営を続ける中で、公立生と私立中高一貫校生では学習環境や求められる支援が大きく異なることに気づきました。そこで2012~2013年頃に事業を分化し、それぞれに最適化した教育サービスの開発を進めました。私立中高一貫校生向けには、学校ごとの進度や定期テストに対応した個別指導塾「Ways(ウェイズ)」を展開。難関大学出身講師による専門的な指導を強みに、現在は全国35教室を直営で運営しています。一方、公立生向けには「進学塾メイツ」を運営し、ICTを活用した再現性の高い学習支援の仕組みづくりに取り組み、自社で教材開発を行ってきました。その過程で開発したICT教材サービスは、現在、全国約3500教室の学習塾に導入されています。
本日はさまざまなお話を伺ってきましたが、改めて塾の原点について考えさせられました。ぜひ哲夫さんにも、教育に対する考え方をお聞きしたいと思っています。
哲夫 遠藤社長は学生時代から塾経営を始められたんですよね?
遠藤 はい。大学生のときに父に「塾をやるからお金を貸してほしい」と頼んだんです。失敗したら大学を卒業して就職し、もう一度チャレンジするつもりでした。ただ、大学に通い続けるにもお金がかかります。その費用を先に自分に投資してほしいと説得しました。生徒も保護者も抱えている課題は一人ひとり違います。ただ、「個別指導だから何でもやります」という形では指導の質を維持できません。だからこそブランドごとに対象や目的を明確にして、それぞれの指導方針を統一しています。内部進学対策に特化したコースもあります。そういう意味で、かなり細かいニーズがあります。僕らは後発のベンチャー塾なので、大手がやらない領域を徹底してやろうという考えなんです。
哲夫 なるほど。そこまで細かく対応されているんですね。
「寄り道」が子どもを育てる
遠藤 哲夫さんは塾をどんな場所だと考えていますか。
哲夫 子どもにとって問題を解決してくれる場所であり、寄り道できる場所だと思っています。家と学校だけを往復するのではなく、ちょっとはみ出せる場所が必要なんですよね。子どもの頃って、堅苦しい場所だけを行き来したくないんです。少し寄り道できたり、大人と話したりできる場所が落ち着く。悩みを相談したら解決してくれる大人がいる。そんな場所が塾なんじゃないかなと思います。もちろん勉強を教えることは大事です。でも、それだけではない。子どもの成長に必要な「道草」や「寄り道」を支える役割もあると思っています。
遠藤 まさにその部分は私たちも感じています。思春期になると、親が何を言っても届かなくなることがあります。そんなとき、塾の先生を通じてなら素直に聞けるというケースは少なくありません。学校とも家庭とも違う立場で子どもに関われる。その意味でも塾は大切な存在だと思います。
哲夫 僕は地域教育も大事だと思っていて、近所の子どもが悪いことをしたら「あかんで」と声をかけますし、自分の子どもについても「悪いことをしたら叱ってください」と周囲の大人にお願いしています。
昔は地域に怒ってくれる大人がいましたよね。そういう存在は減りましたけど、本当は必要なんじゃないかなと思います。
遠藤 著書の中で、「『論破』しようとする息子の言葉遣いが心配」という保護者の相談に「そんなんヤンキーにしばいてもろたらええねん」と解答されていましたよね(笑)。
哲夫 関西弁の「しばく」にはいろんな意味がありますからね。お茶することを「茶、しばく」って言うたりとか(笑)。関西特有の少し茶化した言い方ではありますが、子どもを傷つけたり、力で従わせたりすることではありません。僕は昔から、「子どもに真剣に向き合うこと」は大事だと思っています。最近は厳しく指導すること自体が難しくなっていますが、本当に間違ったことをしたときに「それは違う」と伝える大人は必要だと思うんです。実際、僕自身も子どもの頃に先生や地域の大人から厳しく注意された経験があります。でも振り返ると、それは自分を否定するためではなく、成長を願って向き合ってくれていたからだと感じています。だからこそ、教育に携わる人には、子どもに寄り添いながらも、必要な場面ではしっかりと伝える姿勢を持っていてほしいと思います。
遠藤 今は塾としても、当然ながら身体的な接触を伴う指導は行いません。ただ、子どもの成長を願って本気で向き合うことは大切だと思っています。子どもたちにとって耳の痛いことであっても、信頼関係の中で伝えるべきことは伝える。その役割はこれからも教育現場に絶対必要なことですね。
AIには代われない、人が人に向き合う価値
遠藤 最近はAIを活用した学習支援にも取り組んでいます。例えば、生徒が問題でつまずいたとき、理解できるレベルの問題まで戻り、AIが段階的にヒントを出しながら、理解を促す仕組みを開発しています。ただ、実際に使ってみると見えてくることもあります。明日がテストだという生徒がどれだけ焦っているか。先生との信頼関係がどれくらいあるか。その子が今どんな表情をしているか。そういった情報はデータ化できません。明日テストの生徒に対しては根本理解より先に「まず点数を取ろう」と、暗記するよう指導しますしね(笑)。一時期は「AIが塾を置き換えるのではないか」と言われましたが、実際には逆で、人間の役割がより明確になってきたと感じています。
哲夫 面白いですね。僕は丸暗記も大事だと思っているんですよ。最近は丸暗記が悪いもののように言われますが、そうではない。例えば先程、必要だと言った「道草を食う」という言葉がありますよね。馬が道端の草を食べている様子に由来するのだと、大人になってから語源を知ると感動する。でもその感動は、子どもの頃にまず言葉を覚えていたから生まれるんです。数学の公式だって同じです。まず覚える。あとから意味が分かる。その順番の学びもあると思うんです。
遠藤 すごく分かります。テスト前に焦る生徒には「まず点数を取ること」、すなわち成功体験が必要だと思っています。成功体験ができると、人は学ぶ意欲を持てるようになりますからね。その上で、将来的には自分で課題を見つけ、計画を立て、必要なときに助けを求められる力を育てていきたいと思っています。
「この子ならできる」という期待が未来をつくる
哲夫 教育で一番大事なのは、やっぱり期待することだと思います。子どもを教えているつもりでも、実は大人の方が教えられていることもたくさんある。だから「教えてやる」というより、「この子ならできる」と期待しながら接することが大切なんじゃないでしょうか。
遠藤 本当にそう思います。教育者が「どうせこの子は無理だろう」と思ってしまったら終わりです。私は、塾の先生は子どもを諦めてはいけない仕事だと思っています。親御さんは大変な中で悩み、時には諦めそうになることもあるかもしれません。でも私たちは教育のプロとして関わっている以上、最後まで可能性を信じ続けなければいけない。期待されると人は伸びますから。
哲夫 僕が教育にこだわる理由の一つは、未来の世代に期待しているからです。例えば地球環境の問題。僕が子どもの頃は学校にクーラーなんてありませんでした。でも今は夏の授業にクーラーが必須です。これって本当は異常なことだと思うんですよ。今の大人だけでは解決できない問題がたくさんあります。だから次の世代には、地球環境を改善するような技術や仕組みを生み出してほしい。そのためには、子どもたちに十分な教育の機会を提供しなければならないと思っています。
遠藤 教育者側も、目の前の子どもたちをそういう存在として見られているかが大事ですよね。「この子が未来を変えるかもしれない」と思って接する。その視点を持つだけでも、教育は大きく変わると思います。
遠藤 最後に、教育に携わる皆さんへメッセージをお願いします。
哲夫 子どもを教える中で、子どもから教わることもたくさんあります。だから、ぜひ子どもたちから学ぼうという気持ちも持ってほしいですね。そして何より、子どもに期待してほしい。「この子ならできる」と思いながら関わること。その気持ちは必ず伝わると思います。
遠藤 今日のお話を伺って、改めて教育の原点を考えさせられました。AIやテクノロジーが進化しても、人が人に向き合うことの価値は変わらない。教育とは未来をつくる仕事なんだということを、改めて実感しました。本日はありがとうございました。
【PROFILE】哲夫 1974年、奈良生まれ。
2000年に「笑い飯」を結成。2010年のM1王者に輝き、数多くのテレビやラジオ番組で活躍する。2014 年、大阪市に「寺子屋こやや」を開設。当初は自ら指導することもあったが、現在は後輩に運営を任せている。仏教にも造詣が深く、ネタ作りの合間に般若心経の写経をすることもある。
著書
えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経(ヨシモトブックス発行、ワニブックス発売)
ブッダも笑う仏教のはなし(サンマーク出版)
えてこでもかける 笑い飯哲夫・訳 般若心経 写経帖(ヨシモトブックス)
みんな、忙しすぎませんかね?~しんどい時は仏教で考える。(釈徹宗氏と共著、大和書房)
ザ煩悩(KADOKAWA)
がんばらない教育(扶桑社)
ブッダの一生-カネも妻も子も手放して仏教をつくったスゴい人–(ヨシモトブックス)
花びらに寄る性記(ヨシモトブックス発行、ワニブックス発売)
銀色の青(サンマーク出版)
頭を木魚に(主婦の友社)












![[左] ファシリテーターを務めた(株)塾と教育社 加藤 麻由美 [中] (株)メイツ 代表取締役社長 遠藤 尚範氏 [右] 寺子屋こややを運営する 笑い飯 哲夫 氏](http://www.juku-kyoiku.com/wp-content/uploads/2026/07/2026_07_p44_talk.jpg)






















