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    「子供達に伝えたいことは何ですか?」

全日本私塾教育ネットワーク 第23回
全国塾長・職員研修大会
「子供達に伝えたいことは何ですか?」

2026-07-01

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4月19日(日)、全日本私塾教育ネットワーク(以下、私塾ネット)主催による「第23回全国塾長・職員研修大会」が、東京・大井町きゅりあん(品川区立総合区民会館)で開催された。今回の大会は、私塾ネット設立25周年記念大会として行われた。全国各地から塾関係者が集まり、これまでの歩みを振り返るとともに、これからの私塾教育のあり方について考える機会となった。
大会のテーマは、藤井佐知子氏による基調講演の題目でもある「自立と自律」。「教育の現場で子供達に伝えたいことは何ですか?」という問いを中心に、塾が子供達に何を届けるべきなのかを、参加者一人ひとりが見つめ直す一日となった。

25年の歩みを振り返り、次の世代へ

第2代から第7代理事長

第2代から第7代理事長

大会は、柳田浩靖氏(日米文化学院)による開会宣言から始まった。続いて、私塾ネット理事長の田中宏道氏(LAPIS鎌ヶ谷)が主催者挨拶に立った。田中氏は、私塾ネットにおいて16年間研修部長を務め、その後4年間理事長として団体を支えてきた。今回の大会は、田中氏が理事長としての務めを終え、新理事長へとバトンを渡す節目の大会でもあった。挨拶の中では、これまで私塾ネットを支えてきた多くの人々への感謝が語られた。アビトレの木下氏、教育コーチングの小山氏、志ネットワークの上甲晃氏など、長年の活動の中で生まれたさまざまな縁が紹介された。そうした出会いは一過性のものではなく、今もなお続く「縁」として、私塾ネットの活動を支えている。

開会宣言をする 柳田 浩靖 氏

開会宣言をする 柳田 浩靖 氏

また、出口治明氏の言葉として「人と本と旅」が紹介された。教育に携わる者は、子供達に知識を教えるだけではなく、広く世の中を知り、自らも学び続ける必要がある。子供達がこれからどう生きていけばよいのかを伝えるには、まず大人自身が世間を知らなければならない。目先の点数や合格は、もちろん大切である。塾である以上、そこから目をそらすことはできない。しかし、それだけで教育を終わらせてよいのか。10年後、20年後に子供達がどう生きていくのか。さらに50年後、100年後に、どのように幸せに生きていくのか。田中氏の挨拶からは、そうした長い時間軸で教育を考える姿勢が感じられた。

新理事長へ引き継がれる私塾ネット

田中宏道理事長(左)から寺嶋謙次新理事長へ引き継がれた

田中宏道理事長(左)から寺嶋謙次新理事長へ引き継がれた

田中氏の後を受け、新理事長には四国・香川県の寺嶋謙次氏が就任した。香川県で学習院セミナーを運営する寺嶋氏は、理事長就任にあたり、緊張やプレッシャーの大きさについても率直に語った。夜も眠れないほどの重圧を感じながらも、これまでの私塾ネットの歩みを受け継ぎ、次の時代へつなげていこうとする姿勢が会場に伝わった。

これまでの歩みに感謝を込めて

功労者表彰 第4代理事長で湯口塾の湯口兼司氏と第2代理事長でAIM学習セミナーの谷村志厚氏

功労者表彰 第4代理事長で湯口塾の湯口兼司氏と第2代理事長でAIM学習セミナーの谷村志厚氏

オープニングに続いて、功労者表彰が行われた。表彰されたのは、私塾ネット第2代理事長であり、千葉県でAIM学習セミナーを運営する谷村志厚氏と、私塾ネット第4代理事長であり、香川県で湯口塾を運営する湯口兼司氏である。谷村氏は、私塾ネット創設時の資料を持参し、設立当初の様子を振り返った。創設の会が品川プリンスホテルで行われたこと、21世紀の教育、公教育のゆがみ、全国9カ所に広がるネットワークの輪など、私塾ネットが何を問題意識として生まれ、どのように活動を広げてきたのかが語られた。湯口氏は、初期の研修部に関わった人物として紹介された。長年にわたり、私塾ネットの学びと交流の場づくりを支えてきた両氏の功績に対し、会場からは大きな拍手が送られた。
設立25周年という節目に、私塾ネットの土台を築いてきた先達への感謝を、参加者全員で共有する時間となった。

それぞれの私塾ネット

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続いて、「それぞれの私塾ネット」と題して、各エリアからの報告が行われた。
まず登壇したのは、中国エリアの増井佐世子氏(学習サークルTerra)である。増井氏は、幼児教育から小3への接続の重要性を強調した。小3までに算数脳を育てること。小3までに小6の内容を終わらせることで、その後の学習へスムーズに移行できること。そして、小4で訪れる、いわゆる「9歳の壁」に備えること。保護者は、在籍途中から、より偏差値の高い学校を目指したがる。だからこそ、低学年のうちに土台をつくっておくことが大切であると述べた。。単なる計算練習にとどまらず、考える力をどう育てるか。増井氏の報告は、低学年教育と中学受験指導の接続を考えさせる内容であった。
次に、エリア関東から伊丹龍義氏(SRP教育研究所)が登壇した。伊丹氏はIT担当として、これからの塾運営に必要な取り組みについて報告した。伊丹氏は、今後の取り組みとして三つの方向性を示した。一つ目は、オンライン塾である。日米文化学院での取り組みを例に、地域に限定されない学びの可能性が語られた。二つ目は、映像授業である。ただし、一般的な映像授業はうまくいきにくい。そこで重要になるのは、普段子供達を担当している講師が映像を撮ることである。日頃から関係性のある先生の授業だからこそ、補助的な学習として意味を持つ。三つ目は、SNSの活用である。塾の先生がどのような考えで子供達と向き合っているのかは、外からは見えにくい。だからこそ、個々の先生の魅力や方針を発信し、地域や保護者に伝えていく必要がある。伊丹氏の報告は、私塾がこれからの時代にどのように自らを発信し、地域に選ばれていくのかを考えるものであった。
続いて、広島で学習共同体河浜塾を運営する河浜一也氏が登壇した。河浜氏は時代の変化の速さにも触れた。塾業界でも買収が進み、教育を取り巻く環境は急速に変わっている。AIの進化によって、教育の形もさらに多様化していく。しかし、AIが教育を担う時代になったとしても、AIを使いこなせない子、AIによる学びについていけない子は必ずいる。だからこそ、それぞれの子供に合った教育が必要である。教育が多様化すれば、そこから新たな変化も生まれる。河浜氏の報告は、時代の変化を受け止めながらも、人が人に関わる教育の価値を問い直すものとなった。

学びの前に、身体を動かす

上田 泰子氏によるエアロビクスアトラクション

上田 泰子氏によるエアロビクスアトラクション

エリア報告の後には、上田泰子氏によるエアロビクスアトラクションが行われた。上田氏は、一般社団法人「22世紀親子からだ育て塾」代表理事であり、全日本エアロビック選手権優勝者である。上田氏は、身体を動かすことを通して、体の細胞に酸素を届けることの大切さを伝えた。研修大会というと、座って話を聞く時間が中心になりがちである。しかし、実際に身体を動かすことで、会場の空気は一気に和らいだ。初対面の参加者同士も、笑顔で身体を動かす中で自然と距離が近づいていく。エアロビクスアトラクションは、基調講演に向けて会場全体を温かく整える時間となった。
そして休憩を挟み、今回の大会の中心である藤井佐知子氏による基調講演へと移った。

「自立と自律」―教育の現場で子供達に伝えたいことは何ですか?―

基調講演に登壇したのは、対話と気づきのプロデューサー 藤井佐知子氏である。講演のテーマは、「自立と自律─教育の現場で子供達に伝えたいことは何ですか?─」。藤井氏は、海外での長い生活と仕事の経験を踏まえ、30年ぶりに日本へ戻ってきたときの感覚を「浦島太郎」のようだったと語った。外から日本を見てきたからこそ、日本の強さも弱さも見える。今回の講演では、その視点から、子供達に何を伝えるべきかが語られた。
藤井氏は、人間とは「環境と習慣の産物」であり、同時に「偏見だらけの存在」でもあると述べた。偏見を持つこと自体は避けられない。しかし、大切なのは、その偏見だけで相手や物事を判断しないことである。また、英語力についても「二の次」であると語った。重要なのは、言語そのものよりも、自分が何者であり、どのような視点で世界を見ているのかを理解することである。

自立とは、自分の根を信じること

藤井氏は、「自立」という言葉について、英語のindependenceよりもself-relianceに近いものとして語った。自立とは、単に誰にも頼らず一人で立つことではない。自分のルーツや祖先を通じて、自分の根っこを信じること。自分がどこから来て、どのような歴史や文化の中で生きているのかを理解することが、自分を支える力になる。
藤井氏は、「極東」という言葉にも触れた。自分たちの位置を、誰のレンズで見ているのか。他人の価値観やものさしに囚われたままでは、自分自身の立ち位置を見失ってしまう。だからこそ、他の人のレンズに支配されず、自分のidentityを守ることが大切である。自立とは、自分の足で立つことであると同時に、自分の根を信じ、自分の位置を自分の目で見つめることでもある。

自律とは、関わりの中で自分を整えること

一方で、「自律」はautonomyとして語られた。自律とは、自分勝手に生きることではない。生物として生きる中で、他者との関わり合いの中にあるリズムを意識し、自分を認識し、自分を整えていくことである。人は一人では生きていない。家族、友人、地域、社会、歴史、文化など、多くの関係性の中に存在している。その関係性の中で、自分はどう振る舞うのか。どのように判断し、どのように行動するのか。そこに自律の意味がある。自分で判断し、自分を律しながら、他者とともに生きていく。その力を育てることが、教育に求められている。

文化の違いから見える教育観

藤井氏は、子育てに関する欧米の価値観にも触れた。欧米では、子供とは別の部屋で一人で寝かせることがよいとされ、添い寝は甘えと見なされる場合もある。しかし、子供用ベッドがない時代には、親子で川の字になって寝ていたはずである。実際には、文化や環境によって子育ての形は変わる。ここで重要なのは、どちらが正しいのかを単純に決めることではない。自分たちがどの価値観を前提にしているのかに気づくことである。他国の価値観や、外から与えられたレンズだけで自分たちの教育を見てしまえば、本来大切にしてきたものを見失うことがある。教育の現場では、子供達に世界を知る力を育てると同時に、自分自身の文化や歴史を見つめる力も育てる必要がある。

歴史と史実、そして日本人の強さ

基調講演に登壇した藤井佐知子氏(左)と鈴木正之会長

基調講演に登壇した藤井佐知子氏(左)と鈴木正之会長

講演の中では、歴史と史実についても語られた。イギリスのパブで隣にいた若い男性客から、“Are you cruel?”(あなたは(日本人だから)残酷な人でしょ?)と問われたことが紹介された。歴史は、単なる過去の出来事ではない。どの視点から語られるかによって、見え方が変わる。だからこそ、子供達には、一つの見方だけで判断するのではなく、複数の視点から物事を見る力を持ってほしい。
藤井氏は、日本人の強さとして、平均的な教育レベルの高さや、社会人としての精神性の高さを挙げた。一方で、話をしているうちに、いつの間にか相手の話になってしまうような、自分の軸の弱さにも触れた。相手に合わせる力は、日本人の強みでもある。しかし、それが行き過ぎると、自分の考えや立ち位置を見失うことにもつながる。だからこそ、自立と自律が必要になる。

勉強と運動、そして「共育」

藤井氏は、勉強と運動の関係についても触れた。勉強と運動は対立するものではなく、両立するものである。今の子供達は骨が折れやすいという話から、身体を育てることの重要性も示された。
また、「共育」という言葉も印象的であった。日本人が少しずつ弱くなり、内に籠るようになっているのではないか。そうした問題意識の中で、子供だけでなく、大人も共に育っていく必要がある。
教育とは、子供に何かを一方的に教えることではない。大人自身も学び、問い直し、成長していく営みである。藤井氏の講演は、教育を「教える側」と「教わる側」に分けるのではなく、互いに育ち合う営みとして捉え直す機会となった。

塾の現場で、子供達に何を伝えるのか

振り返りと情報交換の様子

振り返りと情報交換の様子

講演タイトルにある「教育の現場で子供達に伝えたいことは何ですか?」という問いは、参加者一人ひとりに向けられた問いでもあった。塾の現場では、日々、点数や合格に向けた指導が行われている。宿題を出し、授業を行い、間違い直しをさせ、テストに向けて努力させる。それは塾にとって欠かすことのできない役割である。しかし、子供達に残すべきものは、それだけではない。自分は何者なのか。どのような価値観の中で生きているのか。他者とどう関わるのか。自分の人生をどのように歩んでいくのか。こうした問いに向き合う力を育てることも、教育の大切な役割である。目先の点数や合格を大切にしながらも、その先にある子供達の人生を考える。10年後、20年後、さらには50年後、100年後に、子供達が幸せに生きていくために、今何を伝えるべきなのか。藤井氏の講演は、その問いを参加者に投げかけるものだった。

思いを共有し、次の実践へ

基調講演の後は、「思いを共有する」と題して、参加者同士の振り返りと情報交換が行われた。藤井氏の話を聞いて何を感じたのか。これまで自分は教育の現場で何をしてきたのか。そして、これから何をしていくのか。参加者はそれぞれの言葉で、自塾の現場や自身の実践を振り返った。同じ「塾」といっても、地域も規模も指導形態も異なる。しかし、子供達の成長を願い、日々悩みながら実践を重ねている点は共通している。全国から集まった塾関係者が互いの言葉に耳を傾けることで、自分の現場を見つめ直す時間となった。

設立25周年の節目に

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今回の研修大会は、私塾ネット設立25周年という節目に行われた。これまで私塾ネットは、全国の私塾関係者が地域や立場を越えてつながり、学び合う場をつくってきた。今回の大会でも、功労者表彰、各エリアからの報告、基調講演、参加者同士の対話を通して、その歩みと価値が改めて確認された。
教育の形は、時代とともに変わっていく。AIの進化、少子化、地域社会の変化、保護者の意識の変化など、塾を取り巻く環境は大きく動いている。しかし、子供達の成長を願い、一人ひとりと向き合うという教育の本質は変わらない。「子供達に何を伝えたいのか」。この問いは、藤井氏の基調講演だけでなく、大会全体を貫く問いでもあった。
設立25周年を迎えた私塾ネットの全国塾長・職員研修大会は、これまでの歩みに感謝し、次の時代の私塾教育を考える場となった。参加者にとって、それぞれの教育現場へ、新たな問いと実践への思いを持ち帰る一日となった。


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