
学研グループ いま、きこえてくる子どもたちの声
「生成AI」「なりたい大人像」「不安」
「未来の社会」「不登校」「おとなに言いたいこと」
「幼児白書」「小学生白書」「中学生白書」「高校生白書」の最新結果を解説
3月12日(木)、株式会社 学研ホールディングスが実施してきた「白書シリーズ」の最新調査結果の報道者向け発表会が東京都品川区にある同社の本社で開催された。
今回発表されたのは、全国の幼児から小中高生を対象に「好きな教科」「生成AIの利用」など日常生活・学習に関する調査結果である。会場では同社代表取締役社長の宮原博昭氏の挨拶に続き、学研教育総合研究所所長の川田夏子氏が調査結果について解説。続いて、青山学院大学教育人間科学部教育学科教授の益川弘如氏と川田氏によるトークセッションが繰り広げられた。
今の時代を生きる子どもたち
その姿と変化がより立体的に
「今年は小学生・中学生・高校生白書並びに保護者の教育観に関する調査に加え、幼児調査を実施いたしました。さらに本年より子どもたちの生の声をより深く捉える取り組みとして、自由記述の設問を拡充しております。幼児から高校生、そして保護者まで横断的に調査・分析し、子どもの声を基点にすることで、今の時代を生きる子どもたちの姿とその変化が、より立体的に見えてまいりました。本日はそのポイントを詳しくご説明いたします」と、同社広報室長の佐藤梓氏がこのように挨拶して発表会はスタートした。
なお、この「白書シリーズ」は、学年別月刊学習誌「科学」と「学習」発行の頃から40年以上にわたり継続している、小学生の「日常生活」や「学習」に関するアンケート調査だ。その結果は2010年以降、毎年、同社の調査・研究機関である学研教育総合研究所のホームページ上で発表されている。
今回の調査が実施されたのは2025年の11月から12月。対象は小中学生の子どもを持つ保護者、高校生、4歳~6歳の幼児の子どもを持つ保護者だ。調査方法はインターネットを使ったアンケートによる。回答者は幼児と小学生が各1200名、中学生と高校生が各600名だ。
少子化が進む中、子どもたちを大切に育てていくために
佐藤氏に続き、同社代表取締役社長の宮原氏が次のように挨拶した。「幼児のお子さんから高齢者の方々に向けた教育やサービス事業を展開している企業は弊社だけではないかと私は自負しております。世界に目を向けても、弊社のような企業は珍しいということです。
弊社は家庭学習と公教育と地域教育の3つを大切にしています。欧米では学校と家庭が教育を、地域コミュニティでは教会がしつけの部分を担っています。かつての日本では寺子屋がその役割を果たしていました。
現在の日本における地域教育は、民間教育である塾や教室が担っています。欧米と比較すると、塾や教室は特異な存在といえます。こうした状況の中、弊社は40年間にわたって調査を行ってまいりました。今日、発表いたしますデータからは、今日における教育の傾向がお分かりいただけると思います」
宮原氏はこう述べたあと、日本は欧米に比べて教育に対する公的支出額が低いこと,それに伴って教育格差が生まれていることに言及。GIGAスクール構想を含めたデジタル化により、地域格差がなくなりつつあるが、依然として所得格差による教育格差は拡大していると述べた。
「こうした格差を解消するために高校無償化が導入され、幼保無償化も進んでいるのですが、家庭では、これによって浮いたお金が貯金や食料品の購入に回されてしまうケースもあります。
高市総理が掲げた重点投資対象17分野にも教育は入っていません。食料品や新聞は消費税の軽減減税率の対象になっていますが、弊社のような出版業はその対象になっていないため、弊社はその適応に向けて運動しているところです。
このような現状の中、子どもたちの数が減少しています。その子どもたちを私たちは大切に育てていかなければならないはずです。
にもかかわらず、私が気になるのは、日本の子どもたちの自己肯定感の低さです。自己肯定感を持った子どもたちの数は、欧米の半分以下なのです。
学校や塾では自己肯定感を養う教育を行っています。ですから、いったい、どこに問題があるのか。そんな子どもたちをどうやって救っていったらよいのか。これらを含めて、今日の資料の中から読み取れる部分はかなり多いのではないかと思います。ぜひ、参考にして記事を書いていただきたい。みなさんのペンの力で世の中を、日本の未来を少しずつ強くしていただきたいと思います」
中学生は「自分らしく自由に生きている」大人になりたい
続いて、学研教育総合研究所所長の川田氏が「いま、きこえてくる子どもたちの声」と題し、「幼児白書」「小学生白書」「中学生白書」「高校生白書」の調査結果と保護者アンケート結果についてプレゼンテーションした。まず、「2025年度調査におけるトピックス」から。
「最初に『将来の就きたい職業』に関してご紹介します。なお、これまでの調査では回答に選択式を採用していたのですが、職種が60種と多岐にわたって判断しづらくなったため、今年度はご自身の言葉で伝えていただけるように自由回答としました。結果的には昨年とあまり変わらない職種が上位になっています。
幼児の場合、1位が『パティシエ』、『警察官』、3位が『消防士』、4位が『アニメ・ドラマ・映画・童話の登場人物・キャラクター』です。年齢別に見ますと、この4位のアニメやドラマのキャラクターと答えた幼児は4歳児が多く、5歳児になると減ってきます。年次が上がっていくうちに成長し、架空のものと、現実のものとの区別がついてくるのだと私は感じました」
小学生は1位が「ネット配信者」、2位が「パティシエ」、3位が「警察官」。中学生は1位が「会社員」、2位が「公務員」、3位が「学校の教員」だ。高校生は1位から3位まで中学生と同じ結果である。
一方、保護者に聞いた「子どもに就いてほしい職業」は全体(男女合わせて)、幼児、小中学生ともに1位が「会社員」2位が「公務員」、3位が「医師(歯科医師含む)」だ。
「不安定な社会情勢の中、安定した職業に就かせたいという保護者の方々の思いが結果に現れていると感じました」
「どんな大人になりたい?」では、小学生の男女も全体も1位が「人にやさしく接している」、2位が「友だちがたくさんいる」。中学生男子と全体の1位が「自分らしく自由に生きている」、中学生女子の1位が「人にやさしく接している」。高校生男子と全体の1位が「趣味を楽しんでいる」だ。高校生女子は「お金をたくさん持っている」となっている。「中学生の『自分らしく自由に生きている』は、高校生の『趣味を楽しんでいる』につながるので納得できました。
高校生女子の『お金をたくさん持っている』に関しては、同じく高校生女子の5位『おしゃれ・容姿が整っている』を見ると、経済的な心配よりも、おしゃれにお金を使いたいという気持ちの表れかもしれません。もう少し深く掘り下げると背景が見えてくると思います」
次に保護者の「将来どんな子に育ってほしい?」。幼児の1位が「思いやりのある子」、2位が「友だちを大切にする子・友だちが多い子」、3位が「自分に自信が持てる子」、4位が「自分らしさ(個性)のある子」となっている。「2022年も同じ質問を幼児の保護者の方々に聞いています。当時も『思いやりのある子』が1位で全体の62%でした。しかし今年度は同じ1位でも41%に減っているのです。代わりに1.7%から6.6%と大きく増えたのが8位の『リーダーシップを発揮できる子』です。思いやりは非常に重要ですが、それに加えて、自分が何をどうしたいのかはっきりと見える子、自分の『好き』を大切にできる子に育ってほしいと願う保護者の方々が増えてきたのではないかという印象があります」
悩み相談やカウンセリングに生成AIを使う高校生たち
「『生成AIを使っていますか?』に対しては小学生が36.6%と倍増しています。利用目的を見ると、1位が『情報収集のサポート』、2位が『宿題・勉強の手助け』となっています。
一方、高校生は73.7%が使用していると答えています。実際にはもっと活用しているのではないでしょうか。利用目的では、小中学生の1位である『情報収集のサポート』に対して、高校生は『宿題・勉強の手助け』が1位になっています。3位の『悩み相談・カウンセリング』に関しては、高2女子が多く、より日常的・具体的に使用している様子がうかがえます」
また、「SNSの情報を(正しいかどうか)確かめていますか?」というファクトチェックに対しては、「確かめる」と答えた小学生は55.8%、高校生は60.2%だ。一方、「本当かどうか気にしていない」と答えた小学生は24.7、高校生は15.3%である。
「どのように確かめていますか? の答えを見ると、小学生の多くがまず家族に、次に友だちや学校の先生など身近な人たちに聞いていることがわかります。
高校生は41.8%が『別の情報を調べて比べている』と、24.5%が『本当かどうかわからないときは信じないようにしている』と答えています。
いずれにしても、授業や勉強、日常生活にスマホやSNSが深く入り込んでおり、情報リテラシーにかなり気をつけるよう、私たち大人が伝えていく必要があると思いました」
中高生ともに戦争や暴力などがない平和な社会にしたいと望んでいる
続いてプレゼンテーション後半の「2025年度調査からきこえる、子どもたちの声」へ。
「悩みはある?」の質問には小学生の半数が「ある」と答えている。悩みごとの内容の1位は「学校での友だち関係」、2位が「学習に関すること」、3位が「学校での先生との関わり」だ。
高校生は4人中3人が「ある」と答えている。悩みごとの1位が「学習に関すること」。2位が「自分の容姿・性格」であり、こう答えたのは、女子が男子より21ポイント高い結果となった。
「こうした悩みを誰に相談するか?を聞くと、小学生は母親が一番多く、次に父親と友だちになっています。この質問は小学生にしかしていないのですが、『生成AIを使っていますか?』の質問に高2の女子が『悩み相談・カウンセリング』と答えたように、進路や勉強に関しては家族に相談できても、親に心配をかけたくないという気持ちからChatGPTに相談するケースも増えていると思います」
「不登校の理由は何だと思うか?」に対する高校生の答えの1位は「いじめ」だ。「どのエリアに留学したいか?」には70%が「留学したいとは思わない」と答えた。これには「社会や世界情勢の不安定さなどが反映しているのでは?」と川田氏は推測している。
「未来の社会を、どのような社会にしたい?」の問いには、留学の回答と同じく社会状況を反映してか、中高生ともに1位が「平和な社会(戦争や暴力などがない)」、2位が「安心して暮らせる社会」、3位が「自分の好きな仕事で無理なく働ける社会」となっている。
「若い世代の意見にもっと耳を傾けてほしい」
「努力すれば夢はかなうと思うか?」に「思う」と答えた小学生は84.6%、中学生は84.0%、高校生は73.5%だ。
「学年が上がるにつれて、現実的に自分にどれだけの力があるのかを考えるためにパーセンテージが下がるのかもしれません。それでも、自分の未来には希望を持ってほしいと思いますし、私たち大人も子どもたちがそうなってくれることに希望を持ちたいと考えています」
さらに「自分の行動で社会をよりよくできると思うか?」に「思う」と答えた中学生は72.8%、高校生が59.8%である。
そして、アンケートの最後は「おとなに言いたいこと」。この回答には「子どもの話を聞いてほしい(小4)」、「政治などに子どもの意見も尊重してほしい(中2)」、「若い世代の意見にもっと耳を傾けてほしい(高1)」、「自分が生きてきた物差しで測るのをやめてほしい(高3)」、「固定観念のアップデートをして(高3)」などの声が返ってきた。
「社会や政治、大人に対する意見は高校生になると圧倒的に増えてきて、やはり大人に近づいているなという印象があります。そういう意味では健全なのかなとも思いますが、逆に、そういうふうに言ってくれる子どもたちを私たち大人が受け止める必要があると今回の調査結果を見て感じました。こうして子どもたちの声を聞き続けること、問い続けることで、子どもが主体性に考えられる材料を増やし、『好き』や興味・関心を引き出し、これらを未来につなげていくことが弊社の願いです」
どの領域で働きたいのか明確化すると違った傾向が見えてくる
プレゼンテーションのあとは、認知科学・学習科学・教育工学を専門とする、青山学院大学教育人間科学部教育学科教授の益川氏と川田氏とのトークセッションへと移った。
川田 私ども学研教育総合研究所は益川先生から様々な示唆をいただいてきました。以前、先生とお仕事をご一緒させていただいたとき、特に印象に残っていることがあります。先生は「社会にどう貢献するかを考えて、大学に入ってくる学生が増えてきた」とおっしゃっていました。私どもが調査の中で、今の子どもたちがどんな大人になりたいのかを聞き始めたのは、先生のそのお話がきっかけでした。
益川 学校ではキャリア教育が充実してきているとともに、最近ではSDGsに関する学びも増えてきて、将来を見据えながら、様々なことを考えて入学してくる大学生が増えているのです。
川田 では、先生は2025年度の調査結果をお聞きになって、どのような印象を持たれましたか?
益川 私なりの解釈と異なる点もありました。たとえば「将来就きたい職業」に関して、今回から自由回答に変えたとのことで、会社員や公務員など安定した職業が多いというお話しでした。しかし、会社員といっても金融系から今日お集まりのみなさんのようなメディア系まで、様々なタイプの職業があるわけです。
ですから、会社員や公務員で一括りにせず、どの領域で働きたいのか明確にわかると、違った傾向が見えてくるのではないでしょうか。たとえば、エンジニアやプログラマーが減ってきてはいるのですが、もしかしすると会社員という枠組みの中にIT企業で活躍したいお子さんもいるかもしれません。こうした部分が見えてくるとますます興味深いといえます。
川田 おっしゃる通りで、子どもたちはもしかしたら、よくわからないために「会社員」とだけ答えているのかもしれません。そうなると会社員をどう捉えているのかも気になります。幼児のお子さんはこれとは反対です。トップには入りませんが、ねぶたを製作する専門家の『ねぶた師』など具体的な職業名が回答に出てきます。こうした細かな部分をこれから探究していく必要があると思います。
AIを頼れるパートナーとして適切な距離感をもってつきあう
川田 最近話題の生成AIに関して、益川先生は小中学校でこれを活用した授業の実践に取り組んでおられます。子どもたちの様子を実際に見ていかがですか?
益川 生成AIの利用目的に対するアンケートの2位が『宿題・勉強の手助け』となっているように授業では積極的に使われています。しかし、先生方が指導しない限り、生徒は検索して宿題の答えだけを書き写して満足してしまう傾向にあります。こうした中、リテラシーを育んで、生成AIを子どもたちが思考しながら使うためのサポート役にするには、どうすればよいかを研究していくことが必要です。
悩みの相談やカウンセリングに関しては、ご両親や友だちとは違って、生成AIなら何度も聞いても嫌がりませんし、眠くなったりもしません。いつでも相談にのってもらえます。しかし、子どもたちがどこまで生成AIを人とみなしてよいのかは、リテラシー教育の課題といえます。本当に人と同じだと思ってやり取りしてしまうのは非常に危険です。人ではないけれど頼れるパートナーとして適切な距離感を持って付き合っていくことが、本人の最終判断や、情報に対して価値をつける方法を変えていくと思います。
川田 生成AIが日本人になじむのが早かったという報道があったことを記憶しています。私は日本人がキャラクターをつくるのが非常に好きなので、ChatGPTも「チャッピー」という呼び方で浸透したのではないかと思っています。
益川 ただ、生成AIは、使う側が「こういう役割でお願いします」という設定ができます。あくまでも自分が主体で動かす道具です。今の子どもたちは生まれたときからスマホがある世代ですから、今後、使い方も変わってくると思います。
子どもたちの声を上手に拾い、一緒に成長していけたら
川田 さて、今回、様々な声を子どもから聞く中で、私が印象に残ったのは大人に対しての「もっと選挙に行ってほしい」「なぜ選挙に行かないの」といった高校生の声です。大人は選挙に行けというけれど、その大人がそもそも選挙に行っていないじゃないかという不満なのでしょう。
益川 こうした素直な声が聞けるのはよいことだと思うと同時に「自分はできないからよろしく」という大人任せではなく、私が大人になったらこうありたいという思いから出てきたセリフであるなら、非常に嬉しく感じます。
川田 おっしゃる通りだと思います。中には、どちらかというと要望ばかり多いものもありますが、「いつもありがとう」という感謝や「大人は忙しくて大変だと思う」といった声もあります。今だからこそ、このように答えてくれる年代でもあると思うので、私たち大人が子どもたちの声の一つひとつを上手に拾いながら、一緒に成長していけたらと思います。
益川 子どもたちには、社会を積極的に変えていくという意識を持っていてほしいですね。こうしたことを踏まえ、将来就きたい職業などを考えてほしいと願っています。様々な大人や他者との関わりも大切にしてほしいですね。
トークセッションはこうして終了。その後、川田氏や益川氏への質疑応答と囲み取材へと移った。










































