
(株)日能研東海 主催 東海地区中学入試情報分析会
オン・ザ・ロード 2025
日能研東海(野田幹人代表取締役 愛知県名古屋市)は、2008年に河合塾と日能研の合弁会社としてスタート。圧倒的な合格実績のある日能研のカリキュラムや学習支援システムと、河合塾中学受験コースが長年蓄積してきた入試情報や問題分析力、学校情報といった両者の強みをリンクさせ誕生した。日能研グループ全体の連携もあり、東海地区だけでなく、関東や関西の学校情報も豊富に有しており、教育関係者を始め保護者への多彩なイベントを通した情報発信力の高さには定評がある。人気を博しているイベントのひとつが中学受験を目指す小学生の保護者対象に行われる「オン・ザ・ロード」だ。3月16日(日)に開催された2025年中学入試概況と入試問題の傾向分析の概要をお伝えする。解説は日能研東海 企画情報部藤原康弘氏と同社千種校 算数担当 樋口健太氏。
【東海地区の2025年度入試概況】
愛知県の延べ受験者数が9年連続で増加。特に男子受験生の増加に伴い、男子校の入試は難化傾向にあります。また、愛知県初の県立中高一貫校が4校開校し、適性検査が*愛知0週、愛知1週に設置されたため、私立中学の多くが入試日程を変更。愛知淑徳中と椙山女学園中の入試日程が別日になり、女子受験生の動向にも影響しました。
*日能研東海では、日程別の受験者数を分析するため、例年、愛知県の中学入試が一斉スタートする1月3週の土日を愛知1週と定め、それより後を2週、3週と設定。愛知1週より早い成人の日を含む3連休での入試を愛知0週としている。
愛知県・岐阜県・三重県の小6児童数、延べ受験者数推移
愛知県では小6児童数が減少しましたが、名古屋市では少し増加。一方で中学受験率の増加を表す*延べ受験者数は1万4223名と前年1万3545名よりも多くなり、全国的に私立中高一貫校が注目を集めている流れを愛知県も受けていると思われます。名古屋市の小6児童数をみると、男子は昨年の9353名から今年は9492名と139人増加。女子は昨年8914名から8885名とほぼ変わらず。
*延べ受験者数というのは中学を実際に受験した数の合計になるため1人で3校受験した場合は3名と数える。
岐阜県では前年小6児童数1万7199名が2025年度入試は1万6776名と減少、延べ受験者数も前年1084名から1026名と減少。岐阜県は愛知県の受験動向の影響を受け、児童数の減少が延べ受験者数の減少につながったと考えられます。
三重県では前年の小6児童数1万5357名が1万4854名、延べ受験者数は前年1642名が2025年度入試は1465名と減少しています。
3県を見ると今年は愛知県の延べ受験者数の増加、前年比105.0%の増加率が目立つ形になりました。岐阜県・三重県は、児童数の減少にともない、延べ受験者数も大幅に減少。これは愛知県の県立中高一貫校の検査日程がちょうど岐阜県、三重県メインの入試日程と重複しているところがあり、その影響を少なからず受けてしまったと考えられます。一方で愛知県だけ増加しているのは、愛知県の私立中学が県立中高一貫校の検査日と重ならない入試日程を組んだことが大きかったと思われます。
入試日程比較
2024年度入試・2025年度入試
愛知県では成人の日を含む3連休からの入試が基本、スタートとなっていました。昨年でいうと1月6日、7日、8日。今年は1月11日、12日、13日。例年ですとここに多くの学校が入試日を設定していたのですが、県立中高一貫校の1次選抜、2次選抜が愛知0週、愛知1週の土曜日に入ってきたこともあり、今年はその日より前に入試日程を設けることが解禁されました。1月5日、6日は愛知0週の前なので愛知-(マイナス)1週と便宜上呼ぶことにしました。愛知県の入試は5週間にわたりますから、早めに合格をとっておきたい、進学も含めて考えられる学校も受験しておきたいという受験生の心理が働き、多くの受験生が早い段階で受験していました。
2025年度開校
愛知県立中高一貫校 入学者選抜状況
ここで少し、今年初めての入学者選抜が行われた県立中高一貫校*の話をしておきます。明和、刈谷などは私立中学校入試ではあまり見かけることがないような17倍、10倍という実質倍率です。1次を突破するだけでも7倍、5倍という倍率ですので、かなり厳しい選抜だったと思います。
*明和高校附属中学校(普通コース、音楽コース)津島高校附属中学校(国際探究コース)半田高校附属中学校(普通コース)刈谷高校附属中学校(普通コース)
今年1次選抜で使われた適性検査の問題を簡単にまとめました。
・適性検査ⅠとⅡともに大問3つで15題の構成
4教科プラス副教科からの出題があった
・大問ごとに身近なテーマが設定されている
・問ごとの難易度の差が大きく、難しい問題は正確に解答しようとすると時間がかかる
・読み取る分量(文章・表・グラフ)や作業が多いため処理能力が求められる
中学受験に向けた模擬試験を数多く受けた子のほうが少し有利な問題だったと思います。
2026年度には、三河地区を中心に新たに公立高校への併設型中高一貫校、6校が誕生する予定です。
岐阜県・三重県・私立中学
志願者数・受験者数・合格者数
岐阜県、三重県は延べ受験者数が減少しています。例年ですと岐阜県や三重県を受験する愛知県の受験生もいるのですが、愛知県の私立中学が入試日程を変更。愛知0週は愛知県からの受験生を集めづらい日程となったことで全体的に受験者数は減少となりました。また、岐阜県の鶯谷中と三重県の高田中の入試が同日となったことで愛知県からの受験生が分散し、両校とも受験者数が減少しました。
愛知県私立中学(女子校)
志願者数・受験者数・合格者数
志願者数、受験者数減少の学校が目立ちますが、増加しているのが愛知淑徳中と椙山女学園中です。2校とも例年は同日入試で、両校に出願し、前の結果を踏まえて自分の優先順位の高い方を受験するというダブル出願が多かったので、志願者に対して受験者が大きく減るのが両校の特長でした。今年度は別入試日になったため、そういった傾向が少なくなったと見ています。
■愛知県(女子校)の受験トピックス
◎南山中女子部
受験者数はやや減少したが、南山大学附属小学校からの内部進学者は昨年より多いため、合格者数が昨年より減少し実質倍率は高倍率のまま。
◎愛知淑徳中
椙山女学園中と同一だった入試日を変更したことに伴い、昨年よりも受験者数が増加。合格者数は昨年よりやや少ないため実質倍率が上昇。
◎金城学院中
四科入試・英語利用入試は昨年より受験者数・合格者数ともにやや減少で昨年並みの入試難易度に。思考力入試は受験者数が減少し、昨年までと比べるとやや易化。
◎椙山女学園中
愛知淑徳中と同一だった入試日を変更したことに伴い、受験者数が倍増。合格者数も増加しているため入試難易度はやや易化。
◎聖霊中
学科試験選考の入試日が椙山女学園中と同日になり受験者数が減少。
◎名古屋葵大学中(旧 名古屋女子大学中)
2026年度から共学化を発表し、女子校としては最後の入試となった。特奨入試で受験者数が減少したが合格者数は増加。
愛知県私立中学(男子校)
志願者数・受験者数・合格者数
東海中は毎年志願者が1000名を超える状況が続いており、南山中男子部は昨年の志願者数が786名から今年度は902名と116名の増加。実質倍率も3.35倍と難化しています。名古屋中も過去最多の受験者数1543名、合格者数はほぼ変わらずにきていますので、入試難易度は毎年上がっている印象です。全寮制で全国で募集する海陽中等教育は、愛知県以外でも受験生が増えています。
■愛知県(男子校)の受験トピックス
◎東海中
志願者数は1000名を超えており高い人気を継続。受験者数・合格者数は昨年並みで実質倍率に変化なし。
◎南山中男子部
志願者数が900名を超え過去最多。受験者数も過去最多の720名になり入試難易度もやや上昇。
◎名古屋中
受験者数が1500名を超え過去最多となった。募集定員を12名増やしたが合格者数は昨年並みのため今年も入試難易度が上昇。
◎海陽中等教育
東海地区のみならず、首都圏・関西地区でも受験者数が増加しているため、すべての入試形態で受験者数が増加した。
愛知県私立中学(共学校)
志願者数・受験者数・合格者数
滝中は受験者が1846名、過去最多の受験者数。合格者数もやや増加していますので実質倍率は変更なし。愛知中は、志願者、受験者ともに前年よりも減少。実質倍率も下がっておりやや入りやすい入試となりました。要因の一つは県立中高一貫校の2次選抜の日程と入試が重なり出願自体が敬遠されたということ。もう一つは愛知工業大学名電中の入試との関係です。愛知工業大学名電中は土・日2日間の受験を選択するとやや合格の優遇があります。そのため愛知工業大学名電中をどうしても合格しておきたい受験生は、2日間を受験するという流れがトレンドになりつつあり、結果として愛知工業大学名電中を受験する人が愛知中を受験しないという流れがあり、愛知中の減少に少し影響していると考えられます。愛知工業大学名電中は3回の合計で受験者数が1363名となっています。中部大学春日丘中も志願者・受験者ともに増加。地元、春日井市内では男女共に人気です。大成中は、適性検査型入試を東海地区で初めて導入したことにより、受験者数が過去最多となりました。
■愛知県(共学校)の受験トピックス
◎滝中
男子受験生が増えたため、過去最多の受験者数。合格者数もわずかに増加して実質倍率は前年と同率。
◎愛知中
県立中高一貫校の2次選抜と同日の入試日となり欠席者も増加したため、受験者数が減少した。合格者数は昨年並みのため、実質倍率は低下した。
◎愛知工業大学名電中
2日間入試が定着したことで受験者数の合計は過去最多を更新し、ますます入試難易度が上昇した。
◎中部大学春日丘中
男子を中心に人気となり昨年よりも受験者数が増加したが合格者数は減少したため、昨年よりも実質倍率が上昇。
◎大成中
適性検査型入試を新設したことで、県立中高一貫校の志望者を中心に受験者が増加し、過去最多の受験者数となった。
【2025年 東海地区入試問題分析】
●出題傾向(分析対象校は38校39入試)
■国語
全体の出題分野は、漢字・語句・文法47%、読解53%
読解の出題分野は、選択肢が54%、記述が25%、抜き出し21%でした。
例年と比べると大きな差はありません。
■算数
全体の出題分野は、計算20%、数論22%、その他の文章題33%、図形25%計算問題以外の出題分野では、数論27%、図形32%、その他文章題41%です。
■社会
地理39%、歴史39%、公民22%とほぼ例年通りでした。
■理科
生物28%、 地学24%、 物理26%、 科学22%4分野バランスよく勉強することが大事です。
⃝出題難度(4科)
日能研ではすべての出題を3つの難度帯に分けています。難度Aが最もやさしく難度Cが最も難しいレベル帯です。難度Aはほとんどの子が答えを出すことができたであろう問題、難度Bは差がついたであろう問題、難度Cはほとんどの子が解けなかったであろう問題です。
取り上げておきたいことは、国語は難度Aが55%、難度Bが40%、昨年は難度Aが34%、難度Bが63%でした。ちなみにその前の年は難度Aが37%、難度Bが59%でした。昨年その前と比較すると難度Aの割合が、20%増え、難度Bの割合が20%減っており、データ上はやさしくなったとみて取れます。実際に39校の問題からデータをとり、全体をみますと確かにやさしくなったと言えます。しかしその中身は、語彙力があるからやさしく解ける問題が数多くありました。語彙がある子にとっては有利に働く問題が例年より多かったのです。裏を返せば語彙力にあまり自信がない子からすると苦戦しそうな問題が例年通りあったということです。難度Aの割合が上がった原因は語彙力によるものではないかと分析しております。
⃝入試問題紹介
なぜこの問題を私立中学側が出してきたのか、どういう意図がこめられているのか、その問題からどういった学びにつながっていくのかという視点で問題の紹介ができたらと思います。そして最終的に中学受験は面白いな、奥が深いなと思っていただきたいです。
■国語
今年の東海地区の国語の問題は、文章のテーマを意識した出題が目立ちました。その中でも今年度、特に目立ったテーマは、『自由』です。自由と聞くとなんでも好きにやればいいというイメージを持たれるかもしれません。ところが今年度のテーマとして目立った『自由』は、これらの様相とは少し異なっているように感じました。受験生の成長を後押し、自由を追い求めてほしいという未来へのメッセージのように感じる物語文を扱っている学校や、一方で自由の危険性、あやうさについてのメッセージ性を含む論説文から出題している学校もあり、受験生は自由という言葉の意味を考えるきっかけになり考えを深め成長するきっかけになっていると考えます。
■算数
牛乳パックの折り方から体積を求める問題では、同じ大きさの紙なのに体積が違う。どういう折り方をしたら体積は最大になるのかという、数学への展望を示唆する問題だと思います。
■社会
いくつかの都道府県の製油所における輸送費の高低差について回答する問題では、資料からなぜこうなるのかを読み解きます。疑問を抱き解決に導く能力が問われています。
■理科
熱中症という身近な事柄を取り上げ、与えられた公式で計算式を出す問題。経験則ではなく、実験結果に基づいて考える。その場で得た知識の即時活用、正確な処理能力が必要です。
⃝中学入試を通して
中学受験のゴールは中学入試ではありません。入試問題は成長するための素材です。その問題をどうとらえるか、何を感じるか。無限に広がる学び、中学入試はその第一歩です。