
成基コミュニティグループの佐々木よしかず氏
人間力と志を育む教育改革を!教育バウチャー制導入で
すべての子どもに公平な教育機会を
【PROFILE】
佐々木喜一(ささき よしかず)
1958年京都市生まれ
同志社大学文学部卒業
成基コミュニティグループ会長(2023年~)
安倍晋三内閣総理大臣私的諮問機関「教育再生実行会議」
有識者委員(2013~2021年)
一般社団法人志教育プロジェクト 共同代表・副理事長(2014~)
一般社団法人教育再生実行連絡協議会 代表幹事(2018年~)
世界遺産「下鴨神社」氏子総代
国民民主党参議院比例区第10総支部 支部長(2025年~)
成基コミュニティグループの佐々木喜一氏は一昨年の2023年3月、創業60周年を機に経営の第一線から退き、会長に就任した。1987年に進学塾「成基学園」の第二代理事長に就任した当時、教場はわずか5校にすぎなかった。しかしその後、幼児教育、個別指導、国際教育、小中高受験対策、大学生支援、さらには社会人や保護者向けのコーチングまでを手がける総合教育機関へと成長を遂げた。現在、グループ全体の教場数は約150拠点、生徒数は2万人、スタッフは2000名を超え、累計卒業生数は23万人にのぼる。
2013年からの約9年間、安倍晋三内閣総理大臣の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の有識者委員としても活動し、いじめ対策、大学入試改革、地方創生を実現する教育の在り方、ICTを活用し新たな時代を見据えた教育再生、自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く教育などに関する政策提言に携わっている。約40年にわたって子どもたちの成長に寄り添ってきた教育者である。
佐々木氏は学力向上にとどまらず、「志を育む教育」を柱とし、一人ひとりが自らの使命に気づき、社会に貢献する人材として育つことを目指してきた。その理念は今や学習塾の枠を超え、全国の教育現場や家庭にも広がりを見せている。子どもたちの可能性を信じ、次代を担う若者たちの未来に光を当て続けてきた佐々木氏に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。
教育の多様化で不登校・引きこもり問題を解決
私は40年以上にわたり、教育の現場に身を置いてきました。その間、グローバル化やAI技術の進展、さらには少子化・人口減少による国力の低下など、社会環境は大きく変化しています。とりわけ、私が深刻に捉えているのが、不登校や引きこもりの増加です。文部科学省の2023年度の調査によると、小中学生の不登校は34万人を超え、過去最多を更新しました。これは一時的な社会不安や家庭の事情に起因するだけではなく、学校教育そのものの在り方に、構造的な課題があることを示しています。不登校の約半数が引きこもりに至るとも言われており、教育の抜本的な改革が急務だと感じています。
海外、特に欧米や北欧諸国では、不登校や引きこもりといった問題はほとんど見られません。その背景には、子どもの興味や発達段階に応じて学習内容を調整する個別最適化されたカリキュラムの存在があります。また、他者との違いを肯定的に捉え、多様性を尊重する文化も大きく影響しています。スクールカウンセラーや支援スタッフの体制も整っており、ホームスクーリングやチャータースクールなど、義務教育においても多様な選択肢が用意されています。「学校に通うことがすべてではない」という教育観が社会に共有されており、「学ぶこと」と「通うこと」を切り離して考える視点が根付いているのです。
私はスウェーデンを視察し、教育バウチャー制度を導入した大臣とも直接お話をしました。スウェーデンでは、保護者に教育バウチャーが配布され、それを使って自分の子どもに最適な学校を自由に選ぶことができます。選択肢には、公立校だけでなく、音楽やスポーツに特化した学校、私立校、さらには民間の塾のような専門機関や習い事も含まれます。もし入学した学校が合わなければ、容易に転校することも可能です。この柔軟な仕組みこそが、不登校や引きこもりの発生を防いでいるのです。
日本においてもスウェーデンのような教育バウチャー制度を導入することで、学校だけでなく、習い事や探究活動、地域での学びといった多様な教育の選択肢が広がり、結果として不登校や引きこもりへの有効な支援策となると私は考えています。
急激な社会の変化への対応に民間の力は不可欠
社会では近年、独創性やリーダーシップといった非認知能力を備えた人材が強く求められるようになってきました。大学入試においても、面接や小論文の比重が高まりつつあり、学習指導要領には「主体的・対話的で深い学び」や「探究的な学習の重視」が掲げられています。こうした流れは歓迎すべきものですが、実際の学校教育への導入はまだ形式的な側面が強く、依然として画一的な授業運営が続いているのが現状です。
また、2年ほど前に生成AIが登場して以来、その技術は急速に社会へ浸透し、日常の中で活用されるようになりました。AIの前では、単なる暗記型の知識だけでは通用しません。これからの教育には、AIを使いこなす力や、新たな技術を積極的に取り入れて活用できる人材を育てる視点が必要不可欠です。
私たち民間の学習塾は、学校教育の補完機能として発展してきました。集団指導や個別指導、映像教材、自立学習、英会話、理科実験、速読、プログラミングなど、提供するサービスも時代とともに多様化しています。社会が大きく変化する時代において、柔軟に、そして迅速に対応できるという点で、民間教育には大きな強みがあります。実際、プログラミング教育の延長線上で、子どもたちにAIの使い方を教えようと考える企業もあり、時代の要請に応じた教育がすでに動き始めています。
私は、教育バウチャー制はすべての子どもに公平な教育機会を保証すると考えます。すべての子どもたちが自分に合った学びを選べるようにするためにも、公教育だけでなく民間の学習塾や多様な教育機関を選択肢として持てる「教育バウチャー制」の導入が求められます。これにより、家庭の経済状況に左右されず、すべての子どもが最適な教育を受けられる環境を整えることができます。学びの格差をなくし、希望に満ちた未来社会を実現するために、この制度は不可欠であると私は考えます。
子どもが主体的に「学ぶ意味」や「生きる意味」を見つける志教育の導入
「夢」とは自分自身の希望や目標、個人の願望や未来像を指すのに対し、「志」はその夢を土台にしつつ、社会や他者のために貢献しようとする意志や行動を意味します。私は長年にわたり、志教育の推進に携わってきました。その経験から強く感じるのは、子どもたちが単に知識を身につけるだけでなく、主体的に「学ぶ意味」や「生きる意味」を見つけ、自らの「志」を持ってそれを社会に生かす力を育むことの重要性です。現代社会は複雑で多様な課題に直面しており、一人ひとりが自分の使命を見つけ、責任を持って行動することが求められています。志教育は、子どもたちが自己理解を深め、夢を社会貢献へとつなげる思考と態度を育む教育です。だからこそ、未来を担う世代にとって志教育は不可欠な柱であり、教育の中心に据えていく必要があると確信しています。